さくらこ

君の名前で僕を呼んでのさくらこのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.9
これまでに見たことのない映画だった。何度でも繰り返し見たい。エリオとオリヴァー。

これほどまでに美しく、清々しいほどの純愛なのだが、それ「だけ」を描いた作品は見たことがない。

大抵の映画は何かしらの障壁(親の反対とか病気とか)を乗り越えていく様子で感動させにくるけれども、ひと夏の恋-同性であること以外には、障壁はないのだ。
両親に理解があるのがはじめから話し方で分かるし、いいお家に生まれ、音楽の才能もとびきりの知性もあって、いい感じのガールフレンドもいて、なにもかも持っている(ように見える)。だから、シンプルに テーマ:純愛 として丁寧に恋に落ちる様子が描かれる。

ただ、少しだけ大人になりかけの17歳は、恋心に気づくもムスッとしたりドキッとしたり揺れ動く。どのシーンを切り取っても絵画のようで美しい。ティモシー・シャラメはあのときの少年から青年に心と体が成長していく一瞬を切り取っていて、二度と再現することのできない映画。

少し滲んでいるような映像で、脳味噌がとろけていく様な甘美でセクシュアルなシーンがある一方で、カラッとした晴れの続く北イタリアのヴァケーションシーズンと、人々の牧歌的でリラクシングな感じが素敵。

Call me by your name, and I ll call you by mine. という愛情表現は初めてみたけれど
個と個が混ざり合ってひとつになるような、きみは僕で僕はきみなんだ。という究極の、あの空気感でなかったら壊れてしまうような、また同性のふたりの間でしか通用しない愛情表現なのだと思う。

西洋の名前は日本のように意味を込めることがない。普段名乗る平凡な名前が、相手への想いが籠もった瞬間に、特別になる。
ミドルネームも出さないし、設定も北イタリアのどこかとすることで固有名詞をできるだけ減らして、ふたりの呼び合う様子が際立つようにしているのかなと思う。

ふたりの英語での会話も、はじめ絶妙につっけんどんだけど妙に丁寧で、興味があるのが隠せない様子が、とても愛おしかった。

街で唯一のユダヤ人ファミリーですでにマイノリティであることとか、ヘレニズム時代の彫刻の美しさを持ってきた意味とか、オリヴァーが典型的なホワイトのイケメンとして描かれていた対比とか、通りがかるおじいさんやガールフレンド含めすべての登場人物に愛があったこととか、もっと書きたい…

最後のお父さんの語りが、とても響いて、思わず泣いてしまった。
さくらこ

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