津次郎

Mr. Church(原題)の津次郎のレビュー・感想・評価

Mr. Church(原題)(2016年製作の映画)
4.0
いまなお配偶者をとっかえひっかえしつつ白人とのあいだにcream coatedなこどもをぽこぽこ生ませているエディマーフィー。浮説も多くてあちらでは白人にも黒人にもアンチがいるが日本人は概してエディマーフィーが好きだと思う。48時間やビバリーヒルズコップのシリーズをやっていた全盛期にはすごいギャラで日本のCMに出演したのが話題になった。──と記憶している。

大物なかれはもうスタンダップや寸芸をしないが楽しいネタを無限に持っていた。おはこはジェームズブラウンやスティービーワンダーだが個人的に好きなのは(世代がバレるが)「自信満々(すぎる)カールルイス」。男の絶頂時の顔をやるだけの「イクときの男の顔」も楽しかった。白人にもなれてプレスリーもじょうずだった。多彩で多芸で、何をやっても適確に特長を捉えていた。SNL Eddie Murphyで検索すると一日過ごせる。

お笑いのひとは演技力がある。これは定説でまちがいない。トムハンクスとてSNLの出身である。近年ならばクリスティンウィグメリッサマッカーシーキーガンマイケルキーレベルウィルソン・・・。すぐれたコメディアンは例外なくすぐれた演技力の持ち主である。近年見たDolemite Is My Name(2019)。エディマーフィーがRudy Ray Mooreを演じていてとてもよかった。

とはいえ笑いを封印したらどうだろう。──とわたしはよく思う。お笑いの出身者はお笑いの出身者ゆえに、お笑い担当のキャラクタライズがなされることが多い──からだ。ローワンアトキンソンが笑いなしでメグレ警視をやっているやつなんかけっこうジワる。エディマーフィーのまじな役柄が見たいと思っていた。

こうした願いは、彼/彼女がコメディアンの出身者であっても、演技者として立ち位置が確立されると叶う。クリスティンウィグもメリッサマッカーシーも、今ではお笑い担当の役回りから完全に脱却し、シリアスなドラマの主役をはっている。
Mr. Church(2016)もまさにそれ、ずっと見たかったシリアスなエディマーフィーだった。(古い名前な)ブルースベレスフォード監督で映画としても手堅いつくりだったと思う。

映画は3世代の女性にとって、料理人+父親となるMr. Churchについて語っている。
Mr. Churchは鷹揚で穏健だが、じぶんのスタイルを持った黒人だった。
母親を亡くしたチャーリーに、ひとつの規則を守るならば一緒に暮らしてもいい(同居世話人になってもいい)と申し出る。──規則とはプライバシーを尊重すること。
Mr. Churchが言いたかったのは尊厳ある生き方──だったと思う。

チャーリーは、幼少期からMr. Churchを知っていたにもかかわらず、かれがナイトクラブで30年近くピアノを弾いていたことを知らなかった。いっぽう、ナイトクラブの所有者は、Mr. Churchが長年調理人として雇われていたことを知らなかった。かれが料理をする──なんて知らなかった。

どうだろうか。秘匿しているわけではないが、豊かな世界をもっている──身近にそんなひとはいないだろうか。なにもスゴいことでなくてもいいが、いっぱんの会社勤めをしていながら、電子回路を組めるとか、山菜に通じてるとか、狩猟の免許もっているとか、フットサル選手やっているとか、ダイビングチームに入っているとか、・・・なにかじぶんとして大切なものをやっている、それを詮索されたくない。──だけど、人との関わりも大切にする。尊厳をもって接する──そうMr. Churchは言っていた。とわたしは思う。

(余談だが)imdbの値はいいが、rottentomatoesのオーディエンスメーター(一般評)にたいしてトマトメーター(批評家評)が異様に低い。
エディマーフィーはあちらの批評家筋にウケがよくない。トマトメーターは特定の映画人に対してこわばる(偏向する)ことがある。
ちなみにわたしは日本の批評家筋がこわばるところはぜんぶ知っている。(つもりです)。
津次郎

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