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愛のマーチのこのレビュー・感想・評価

愛のマーチ(2016年製作の映画)
3.1
モノクロ映像、ドキュメンタリーパートでのザラザラした質感、アニメーションなど色んなものごちゃ混ぜでビジュアルに偽りなしと言った印象。バンパイアも、鹿の肛門に喰われてしまった男も(自分で書いていて何を言ってるのかさっぱり分からないけど、宇野祥平が演じるとちゃんと絵になるという不思議)、ギャルたちも、異形の者たちに対する監督の愛情的なものを感じました。ティム・バートンとか、デヴィッド・リンチとか、この辺りの監督たちと似たようなものを感じて、そういうもの自体は好きです。オープニングのアニメーションは、アヴァンギャルド版日本むかしばなしみたいな趣もありました。宇野祥平が鹿の肛門に見せられる(?)映像は、なんだか生命体の誕生の瞬間を一気に見せられたような、『宇宙人ポール』でポールがサイモン・ペッグたちに見せるあの映像を思い出させました。

ただ、「異性編」「友情編」「自己編」とそれぞれ3パートをまとめて1本の映画としてまとめたことに関しては、それがどういう意味があるのか、あったとして効果的なのかと考えるとあまり分かりませんでした。「異性編」の監督自らが演じるヴァンパイア、「友情編」の鹿の肛門に喰われた男はなんとなく共存していてもいい気がしますが、「自己編」のギャルたちは果たしているのか。バンパイアの長い爪とギャルたちの長い爪がだぶって見えはしたものの、そこまでギャルたちの内側をえぐり出すわけでもなく。3パートがそれぞれ「マグネチック」のようにクロスしろ、とまでは言いませんが音楽の笹口騒音オーケストラ以外で何か共通のキーワードが欲しかったような気はします。各パートはまあ良かったと思う(1番好きだったのは「異性編」。「友情編」も密度としては「異性編」と同等レベルぐらいで良かった。なのでより「自己編」のパートが希薄に思えてしまう。ただ、あのギャルたちはもっと観たいと思わせてくれた)。だからこそ、各パートの話をもっと見せてくれと思ったのもまた事実なので喰い足りないという印象も残る。

でも、こういう異形なる者、自分とは異質な者に対する愛を感じさせる日本人の映画監督はあまりいないように思うので伊藤監督の今後には期待します。
こ