風になびく桜、屋上の空の青さや何気ない登校中の町の風景、図書室への光の入り具合が、自らの高校時代をも想起させ切なくなる。
そんな誰もが経験したような学校での風景の中の2人の世界は、自分の心の隅に置いておきたいような、温かさを持つ物語となる。
この作品で排除されたもの、それは桜良と春樹以外の”他人”の存在。
この作品には大人が出てこない。未成年2人が九州まで旅に出るというのに、親が出てこない。先生も出てこない。その点に不自然さを感じながらも、より桜良と春樹だけの世界が構築されていく。
そして他人のいない2人だけの世界が強化されることにより、”君”という呼び方が、不特定多数ではない、名前よりも特定的な結びが深い固有名詞となっていく。
「君の膵臓をたべたい」
衝撃的なタイトルだが、見終わった後には”君の”の部分により深さと温かさを感じる。