スベン

こころに剣士をのスベンのレビュー・感想・評価

こころに剣士を(2015年製作の映画)
4.3
戦禍や政治体制のせいもあって、村は静かで子供たちも控えめ。そんなエストニアの片田舎に逃れてきた主人公は小学校でひっそりとフェンシングを教え始める。

荒涼とした寒そうなエストニアの大地は時に寂しくも美しい。そんな中で静かに進んでいく物語だからこそ、段々と豊かになっていく表情や感情の変化が際立つ。
主人公も子供たちもどんどん明るくなっていく。目に見えてフェンシングが上達していくのもいい。
「なにかに打ち込んでいられる間は、つらいことも忘れられる」という台詞。
本作では登場人物たちの核心だと思う。

それでもふとした時に戦禍の名残や、当時のスターリン体制の悪しき慣習(密告や監視制度)が影を落とす。
見慣れない黒い車が突然夜にやってくる恐怖。その意味を子供も含めて皆知っている。そしてノックの音に息を呑む。
平穏な日々はあっという間に失われてしまう。当時のソ連の歪さが、日常のすぐ近くにあるということを嫌でも思い知らされる。
暗い影は主人公にもどんどん近づいてくる。それでも、終盤の大会ははらはらした展開で、応援に力が入ってしまった。
子供たちと主人公の距離感も程よく、大袈裟に感動仕立てになっていないのが逆に良い。だからこそラストがじんわりとくる。

何度か出てくる「剣士(フェンサー)になれ」という言葉。心を強く持って、という響きをも含んでいて、とてもいい言葉だなと思う。
最後に実話と知ってびっくりした。
新年最初の一作目としてもとても良い作品だった。
スベン

スベン