北見

羊の木の北見のレビュー・感想・評価

羊の木(2018年製作の映画)
3.8
文学に例えるなら、芥川賞的作品。好き嫌いが別れ、観る人を選ぶと思う。

直木賞的作品は、いかにわかりやすく観客に訴え魅了させるかに尽きる。場面毎の状況や人物の感情は、セリフや音楽で観客の理解を助ける。飽きさせないテンポ。手に汗握る展開や感動のクライマックス。これが成功している作品は観客の評価も高く、誰にでもおすすめできる。失敗すると豪華2時間スペシャルドラマ風になってしまう。

一方この作品は、ストーリーは単純で人物相関もわかりやすいものの、作品の魅力・世界観を味わうためには、観客側から作品に寄せていく必要があると思う。音楽もセリフも少なく、意味ありげなエンディングも日本語ではない。役者の演技すら時折、鏡のように観客に問いかける。あなたはどう観るのか、どういう感情を持つのかと。

だから、もう少しこうすればわかりやすいのに面白くなるのに、と言った意見は多分的外れなのだろう。監督と脚本家が数年かけて練り上げた作品なのだから。あとは自分に合うか合わないかだけだと思う。今一つ面白味に欠けると思う人もいるだろうが、理解が浅いのではなく好みの問題。

私自身は映画通ではないので、飲んだことのない珍しいワインをいただいた感じではあるが嫌いではない。このような不思議な持ち味の映画があってもいいじゃないかと思う。

主演を含め出演者は陽ではなく陰の役者が多いイメージ。さびれた港町は曇天か雨、又は夜。画面は暗めではあるが煽情的な作りではないので、鬱陶しいほどの湿度はない。ミステリー、サスペンス、人間ドラマ、ファンタジー、どれにも当てはまるようで、どの定義もしっくりこないので、他人にはすすめにくい。

痛快なのは、錦戸亮を主演に起用したことで、吉田大八の支持層とは最も無縁の観客層をも呼び込んだこと。
お嬢様方、こういう映画もあるんだよ。
北見

北見

北見さんの鑑賞した映画