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羊の木のaのレビュー・感想・評価

羊の木(2018年製作の映画)
5.0
まず、映画の予告などから映画のキーワードとして「殺人」「事件」「サスペンス」などの言葉が印象付けられるだろう。それを期待して観るとそれは一気に覆される。殺人事件なんて生ぬるい話じゃないのだ。
1度目は当然主人公である月末に感情移入しながら鑑賞することになる。しかし、回数を重ねるといろんなキャラクターの視点に自分の心を重ねてしまう。魚深という小さな町で芽吹けた者と芽吹けなかった者。木に生る羊はどの5人を表しているのか。のろろ様とは一体何であるのか。どんな理由であれ、罪を犯してしまった者は決して人を愛してはいけないのか。宮腰はなぜ月末を。
受刑者側の6人は個性豊かでキャラクターもしっかりしている反面、主人公の市役所員・月末はごく普通の人物である。穏やかな日常に徐々に訪れる異変、そのなかで信じるか疑うかの白黒を彷徨う演技が絶妙に上手い錦戸亮。月末はずっとグレー。限りなく白に近いグレーの時もあるし、ほとんど黒のグレーもある。1つとして同じ色の演技をしていない。それがまた、不気味さとリアリティを醸し出している。ここまで感情の機微を表現できる俳優は、実は少ないのではないか。
受刑者の中で最もストーリーに関わってくる松田龍平もこれまた圧巻。宮腰はずっと無表情で基本的にあまり感情を表に出さないのだが、宮腰の感情が動くシーンが幾つか存在する。突飛な行動を起こしていくのに何故か心が引き込まれていく。回数を重ねるごとに宮腰に想いを馳せてしまう。
映画全体としては無駄がない、に尽きる。ストーリーにしろ登場人物にしろ。存在感のないキャラクターがいない。キャラクターによって登場回数、時間はバラバラだが、全員が見事に同じくらい前に出ている。羊の木、その意味が分かった途端とんでもない開放感に包まれるだろう。みんな、結局は他人を色眼鏡をかけて見ているのだ。それが外れた時、自分がとんでもないことをしでかしていることに気が付く。
この映画には、自由に埋めていい余白がたくさん与えられている。人によって結末の捉え方も宮腰の感情も、月末の感情も違うだろう。きっと、また明日観たら違う感想が得られる映画。
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