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羊の木のMCShinotchのレビュー・感想・評価

羊の木(2018年製作の映画)
3.5
のろろが作中で象徴するのは、毒でありつつ薬であるような、多面的なあり方をする事物や概念一般なのではないだろうか。かつては海からやってきた村人の敵だったが、戦いを経て今は地域の守り神になっている、という伝承が示すとおり。

これは魚深に越してくる6人の仮釈放者たちにもそのまま当てはまる。彼らは、旧来の価値観に従うならば忌避されるべき者であり、「ケガレ」の側に属するはずだが、そんな彼らを受け入れることで、魚深の狭いコミュニティが部分的にでも再構成され、ポジティブな側面が引き出される(=毒が薬として機能する)ような様子も描写される。また、「受け入れる」側を代表する人物である市役所職員の月末も、本来中立的に見えた某人物を積極的に毒に変えるような言動を取ってしまったりする(=薬が毒を生み出してしまう)。

ただ、話は善悪二元論の脱構築云々よりもだいぶ先を行っていて、真の意味でinclusiveな社会を作ることの困難を扱っているように思えた。殺人犯の社会復帰を支援するプログラムも、毒を包摂しようする取り組みに見えてその実、毒をさらに強め、結果として従前の「ケガレ」が無い社会の優位性を再確認するような営為にも思えてくる。結局我々は共同体の統合のためにパルマコスの儀礼を必要としてしまうのだろうか。

音楽が好きな吉田監督らしく、主人公たちが趣味でやっているバンド演奏シーンが効果的に使われる。当然アテフリだろうが、錦戸亮や木村文乃の弾きっぷりも素晴らしい。
「おっとり地方公務員の日常」的な前半からサスペンスな展開を見せる後半にかけて、この主人公たちが演奏するポストパンク的なヤカマシ系音楽が重要な場面でかかっていく。個人的に、扇情的な劇伴音楽の使い方は好きではないが、こちらは流石というか、セリフを用いずに登場人物の感情を表現する手段としてすごくハマっていたし、いやらしく無かった。

全体を包む不穏な空気の中にギャグセンも光る良作なのだが、強いて言うならばもう少し前半を長くして各仮釈放者の魚深での日常生活を丁寧に描いて欲しかった&元受刑者であることが徐々にわかっていくような演出にして欲しかった。あと、ラストの大見せ場が良くも悪くもザッツ吉田大八マナーな感じなので同監督作品初見だと厳しいかも。
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