YokoGoto

ムーンライトのYokoGotoのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
ーラ・ラ・ランドもムーンライトも、どちらも監督の愛情に溢れた作品だったー

まず、(あり得ないとは思うが)邦題にせずに、原題のまま“MOONLIGHT”としてくれた事に心から感謝したい。
本作のタイトルは“MOONLIGHT”以外に考えられない、月明かりに照らされた夜の海のような作品である。

深く、暗く、静かで、奏でる波音が人びとの心を優しく包み込む。

そんな、愛に溢れた作品を(長編デビュー2作目で)この世に出したジェンキンス監督を賞賛したい。

決して恵まれているとは言えない環境で育った黒人の少年『シャロン』の成長を、少年期、思春期、青年期の3つのパートで綴った物語。
ドラッグ、人種差別、マイノリティー差別、貧困などの、アメリカが抱える闇の部分を、見事な映像美と無駄の無い脚本で語りかけるヒューマン・ドラマである。

元々あった戯曲にインスパイアされて映画化しているが、少なからず監督の実体験も影響しているのだろう。ドラマチックでありながらも、猛烈な社会派のメッセージが含まれている。

何よりも、映像がすこぶる美しかった。
少年『シャロン』にまつわる、目を背けたくなるような厳しい出来事にも、正面から向き合い、見事な映像美でその場の出来事を表現する。

その色彩の美しさは『シャロン』自体の心の色彩である。

どんな風に『シャロン』の心が動き、どんな人びととの関わりで『シャロン』という少年が作られていくのかを、丁寧に脚本と演出で表現しているのだ。

どんな闇でも、優しく拾い上げ、絶望だけにさせない。
その監督の手触りに、大きく深い愛と純粋さを感じ、涙が出てくる。

パート2の思春期で描かれた、同級生との海でのシーンは圧巻だった。このシーンを、この演出で、この構図で、このシチュエーションで描くのかと。最も衝撃的で情緒的で好きなシーンである。

さらに良かったのは音楽。
劇中で流れていた時も、その優しくもしなやかな音楽のチョイスは『センスあるなぁ』と感じたが、映画の後でオリジナルサウンドトラックを聞き直して、さらにその楽曲の素敵さが身にしみた。
映画を見終わった後は、ぜひOSTを聞いていただきたい。

また、キャストについても文句無しだった。
母親役のナオミ・ハリスも素晴らしかったし、何よりも3世代の“シャロン”は、全て異なる役者が演じているのに、そのしなやかな瞳は、3人とも全く同じである。別人であることを忘れるほどだ。瞳だけで、『シャロン』の心を情緒的にリレーする。素晴らしい!

プロダクションノートを見ると、3つのパートは順番に撮影していったらしい。撮影しながら、主人公“シャロン”という青年に命が吹き込まれ、まるで実在の人物のように息づいていったに違いない。

ただ全体的に、ハリウッド映画というよりも、なんとなくヨーロッパ映画のように感じたのだが、その裏付けとして、映画のパンフレットにも書いてあったが、ジェンキンス監督はゴダールやウォン・カーウァイ監督に影響を受けているようだ。

どうりで、きめ細やかな場面の描写や美しい色彩の色使いは、実に独特で美しさが際立っている。従来のハリウッド映画とは、また違った魅力をたたえた作品である。

オスカーの作品賞では、大本命と言われたラ・ラ・ランドを押しのけオスカーを受賞した本作。
2作品を比較してみると、色彩の美しさという意味では、とても似ていると思う。さらに言えば、どちらの作品も、監督の猛烈な愛情を感じる作品である。

真正面から正直に映画と向き合い、観客に愛で溢れた映像を届けてくれたという意味では、内容も作品の毛色は全く異なるが、両作品とも同じように賞賛されるべき作品なのだろう。

【ご注意を】

ただ、開始10分で、私の左隣の女性がイビキをかきはじめた。(笑)1人で観に来ているのだから、よほどの映画ファンだとは思うのだが、ついつい眠ってしまう気持ちも分からないでもない。
フランス映画系が苦手な人はご注意のほど。(笑)
特に、グザヴィエ・ドラン監督作品系が好きな人はお好みかと。
YokoGoto

YokoGoto