ケロケロみん

ムーンライトのケロケロみんのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.5
フロリダ、ヤクの売人フアンはいじめられている少年シャロンと知り合う。シャロンは貧しい母子家庭で、母親はヤク中だった。行き場のない彼に人生は自分で切り開くことを教えるが所詮フアンはシャロンの母のような人々相手に麻薬をさばいて暮らしているのだった。
エミール・ゾラの「居酒屋」「ナナ」ら自然主義小説は人間は育った環境、遺伝、社会環境に影響されて人生が方向付けされることを小説にした。人生のポイントごとに一部分を切り取って詳しく表現する方法が、ゾラの小説に似ている。また偶然と必然の組み合わせによりこうなるより他にないという絶望を抱えることになる。
「シャロン」という男の人生を切り取り、美化やカタルシス無しに淡々と描いている。ゲイの愛の話のようにイメージしていたがゲイの部分はシャロンの抱える生きにくさの一部といったイメージだった。
浮世絵やブルーで統一された家から豊かな暮らしをして、海が好きなことがわかったり、学校の廊下の掲示で何年の出来事かがわかったり、会話でわかること、ベッド脇の台に置かれた写真などで共演者のその後が分かるようにできていることなど、説明台詞を抑えて頭を働かせなくてはならないところが見どころでもある。アカデミー賞受賞に選ばれたのは政治的配慮を感じるけれど、そのフィルタなしにみるとしみじみとどん詰まりをえがいたよい作品だった。