かず

ムーンライトのかずのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
バリー・ジェンキンス監督作品、黒人×LGBTというリベラルな価値世界の中で現在最も熱いテーマをかけ合わせた作品。

薬物中毒の母に育てられた気弱な少年シャロンを通して傷つきやすい人間の繊細な"こころ"が描かれる。ここ数年間、性的マイノリティーへの差別、女性差別、黒人差別、今まで可視化されてこなかった差別構造を炙り出す作品が特に評論家受けが良いが、そこに本作の本質があるわけではない。いかにも優等生的だと馬鹿にするムキもあるが本当にそう馬鹿にできるのだろうか?

本作で特徴的なのは、従来の黒人差別を描くために直接的に白人が登場しない点が挙げられる。ここで、差別当事者であるのは白人優勢の社会そのものであり、それによるアングラ化した舞台の黒人社会そのものが差別被害者と考えて良い。逆に言えば、直接的に白人はヒールとして現れてこない。そして、黒人内での性的マイノリティーに対する差別やいじめ。これは、被害者として描かれがちな黒人も、白人と同様差別は行うし同じ程度に"悪"の面もある事を明示する。

しかし、本作を名作たらしめたのはまた別の部分である。同じように差別を描く名作「アメリカンヒストリーX」では、許されることのない"罪"が主題だったが、本作ではラストシーンの優しい抱擁によって、"罪"が許される。そんな優しさや、未来への希望を抱ける作品こそアカデミー賞に相応しい。私はそう感じる
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