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ムーンライトのyukoのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.7
アカデミー賞取ってるわりに、みなさんの評価が低い今作だが、自分にはバッチリハマった。

終始静けさの中で、さもあれば淡々と描かれる主人公シャロンの日常はしかし壮絶なものだった。フローズンリバーやスノータウンを観た時も思ったけど、常に貧しさや治安の悪さに晒されているスラムや貧困に暮らす人々の諦めや憤りは、派手でドラマティックではなく、むしろ今作に漂う空気感のように彼らにとっていつもそこにある普通で当たり前な日常なのだと。それに慣れてしまっている人々のリアルな空虚さがある。今作はあえて声高にそういった社会問題に訴えない品の良さが逆に良かったし、むしろ彼らの日常をリアルに感じることができた。ストレイトアウタコンプトンが動ならこちらは静という感じ。

3つのタームに分けてシャロンの成長を追うのだが、幼年期、少年期、青年期とどれも俳優さんの表情の演技が絶妙で説得力があり、最後は親のように感情移入してしまった。サウルの息子やカメラを止めるなでも使われた手法だが、主人公の至近距離を背後や正面から撮るカメラワークは臨場感があって、彼の憤りや怒り、諦めや優しさを近くで感じられるし、息遣いまで聞こえてきそうなのは良かった。

学校での差別的な虐めや麻薬漬けの母親からのネグレクトなど酷い境遇でも救いがあったのは、周りに優しい人間が居たことで、彼が孤独にならずに済んだこと。同性愛のテーマで話題になることが多い今作だが、むしろこの映画の主題はそこではなく、人種やセクシャリティを越えて伝わるものがある、シンプルな人間愛なのではないだろうか。

暗闇の中でも、彼を照らす一筋のムーンライトがあった。パッケージの写真がすべて物語っているようで秀逸。心優しく芯の強いシャロンに寄り添うように観た。温かく、どこか胸が締め付けられるように切なく、静かに余韻が心を満たす映画だった。
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