タケル

武曲 MUKOKUのタケルのレビュー・感想・評価

武曲 MUKOKU(2017年製作の映画)
3.8
 言葉では容易に説明し難い荒ぶる力と力のぶつかり合い。側から見れば彼らの行動には何の合理性もないし、正気だとは思えない。だが、"生きていること"を思い知るためには欠かせない決闘であったことはたしかだ。壮絶な過去を背負う二人は、死を見つめることでしか、生の感覚に触れることができなかったのだ。

 死んだように生きる研吾は、まさに化け物そのもの。剣道部員一同と研吾の闘いは、泥沼化した化け物退治にしか見えなかった。相手が子どもでも容赦なく斬りつけたり、殴りつけたり。さらには剣士の魂である竹刀をわざわざ折り捨ててゆく。このシーン一つで、研吾が剣道に対して抱いているただならぬ思いを感じ取ることができた。

 綾野剛の狂気的な演技に恐れ慄きながら鑑賞していると、仏の力による"浄化"のシーンが描かれて、本当に研吾は化け物になってしまっていたのだと妙に納得してしまった。また、"浄化"を経た研吾の豹変っぷりには大変驚かされた。同じ役者が演じる同じ人物であるはずなのに、全くの別人がそこに現れたのだ。

 羽田のトラウマについての描写が不十分であったり、二人がお互いに固執し合う理由が不明確であったりと、ストーリーの粗さは否めないと思う。だが、それらの多くをカバーできるほどに、"オーラ"を感じさせる作品であったと言える。張り詰めた空気や深く深い荒ぶる狂気など、"雰囲気"としか呼びようのないものを、説明過多にならずに映像的に表現することができていた。これこそ、映画館で観ることに価値のある作品だ。
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