こえ

人生フルーツのこえのレビュー・感想・評価

人生フルーツ(2016年製作の映画)
4.6
二人の生活をただ映しただけの映画なのに、なんでこんなにもいいんだろう。
日本住宅公団のエースとして受賞経験もある建築家の修一さんと妻英子さんの二人は、今はその経済至上主義的な世界からは離れて、アントニン・レーモンドの自邸を真似た家で暮らしている。野菜や果物を育て、土と風の匂いを感じながら、ただただ暮らしている。
こんな暮らしができることはなにか特別なようにも思えるけど、なにも特別なことはないようにも思える。人に頼らず、なんでも自分でやるという姿勢で、生活の全てをまかなってきた。当たり前のようで、当たり前でないようで。
監督は、(ナレーションの)樹木希林さんに「あなたには才能がないのよ」と言われたんだとか。すごい言葉だ。そしてこの映画に限っていえば、その才能のなさが映画の余白になって、観る者を魅了するのだろう。押し付けがましくなくて、ニュートラルな状態で観られる。普段はセブンイレブンの弁当ばかり食べている独身の監督と修一さん夫妻の奇妙ともとれる出会いだけど、その余白が映画の味になっている。
映画の最後に、修一さんが「人生最後の仕事」を受けるところがある。九州の精神病院の療養施設で、報酬はなし。それでいて、現役時代と同じくらいの熱の入れようと仕事の処理能力。いつでも設計できる体勢で暮らしていたその姿勢に感動した。こんな人がいたんだと驚いた。
 こつこつ、ゆっくり。
 人生、フルーツ。
何度も繰り返されるこの言葉が味わい深く、そのたびに何度もかみしめていた。
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