こーた

オリエント急行殺人事件のこーたのレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(2017年製作の映画)
-
歌舞伎でも落語でも、いい古典は演じ手をかえ、さまざまにその物語を描いていく。語りとは騙りであり、おなじはなしを、いかにおもしろおかしくかたれるか、という優劣をきそったのが、そもそもの物語の起源なんだとか。
ミステリの女王が生んだこの名作も、映像化だけでさまざまなヴァージョンが存在し、また何度も翻訳されて、古典としての確たる地位を築いてきた。一度観たらゼッタイに忘れない驚異のトリック。なのに何度でも、あらゆるヴァージョンでまた観たくなる。
絢爛たる寝台列車に乗って、物語世界へ入っていく瞬間のワクワク感といい、乗客全員が主役たりうる豪華キャストといい、つくづく映画と相性の良い物語だな、とおもう。著名なパイロット一家の誘拐事件という、当時の「いま」を切り取った物語に、人種差別の問題という「いま」を絡めた翻案も、じつに現代的で見事だ。
結末を知らずに観られるひとが羨ましい。この映画が気に入ったら、ぜひ別のヴァージョンも見くらべ読みくらべてほしい。結末を知ってから、その語りを愉しむのが、古典のほんとうの味わいでもあるのだから。