Omizu

愚か者の船のOmizuのレビュー・感想・評価

愚か者の船(1965年製作の映画)
3.8
【第38回アカデミー賞 美術賞、撮影賞受賞】
『ニュールンベルグ裁判』スタンリー・クレイマー監督が同名小説を映画化した作品。アカデミー賞では作品賞他全8部門にノミネートされ、白黒部門の美術賞と撮影賞を受賞した。

スタンリー・クレイマーは何気に打率が高い監督だと思っている。『ニュールンベルグ裁判』『招かれざる客』『手錠のまゝの脱獄』(未見)と映画史に残る名作を多く手掛けている。そういう意味で期待値は高かったのだが、本作もまた面白かった。

追放された伯爵夫人を演じたシモーヌ・シニョレ、心臓病の船医を演じたオスカー・ウェルナー、孤独な有閑夫人を演じたヴィヴィアン・リーなどキャスト陣も好演。

1930年代、メキシコからドイツへ向かう船に乗船した客たちを群像劇形式で描いている。ちょうどナチスが頭角を現し始めた時期であり、ユダヤ人差別やアウトサイダーへの差別を一つのテーマとしている。

上階にいる中産階級以上の人々、そして下階にいる大量のメキシコ人たち。その構造だけでテーマが露わになってくるという上手い設定。どことなく『逆転のトライアングル』との類似を感じる。

キャプテンズ・テーブルに座る高い階級の人々の空虚さよ。ユダヤ人、小人というだけ、あるいは妻がユダヤ人というだけで席を外される。その傲慢さと偏見の根強さをイヤーに描いている。

船にいる本当の「愚か者」とは誰なのか、彼らの姿を丁寧に描写することで明らかになってくる。ワンシチュエーションで群像ドラマを見事にさばいてみせたスタンリー・クレイマーの手腕の確かさ。それは特筆すべきものがある。

個人的にはやっぱりシモーヌ・シニョレとオスカー・ウェルナーが素晴らしかった。両者ともに負うものがある屈折した恋愛模様を繊細な演技で魅せていた。とてもいい。

現在あまり有名ではないし、配信もアマプラレンタルしかないけど、こんなに観られていないのは勿体ない。なかなかの秀作であるように思う。アカデミー作品賞ノミネートも納得。
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