Chico

ロニートとエスティ 彼女たちの選択のChicoのレビュー・感想・評価

3.8
あらすじ
ロニートとエスティはイギリスの厳格な正統派ユダヤ教コミュニティ(オーソドックス)に生まれ育つ。互いに惹かれ合っていたが、ユダヤ教のもとでその関係は許されず、別々の道を歩むことに。
信仰を捨て、ラビ(ユダヤ教指導者)の父のもとを去ったロニートはNYでカメラマンとして自由に生きる。一方、エスティは幼なじみのドヴィッドと結婚し、妻として、教師として信仰に忠実に生きていた。
父の死をきっかけに故郷を訪れたロニートはエスティと再開するが、敬虔なユダヤの妻として振舞う彼女の姿に動揺し、コミュニティの人達の冷たい視線にたじろぐ。
ドヴィッドの勧めで彼らの家に滞在することになったロニートはある日エスティと共に実家を訪れる。誰もいない部屋、二人はラジオから流れた曲におもわず口ずさみ、懐かしさに捕らわれる。そして長い間抑えていた想いは堰を切ったように溢れ出す。


監督がセバスチャン・レリオということで観ました。本作は原作付き、共同脚本、言語も英語(彼の作品は基本スペイン語)ということで前作「ナチュラルウーマン」とはだいぶ違う印象でした。どうやら主役兼プロディーサーのレイチェル・ワイズが監督に惚れこんで依頼したそうです。

ストーリーや編集など所々で気になる箇所はあるけれど、感情表現は秀悦。俳優の微妙な表情や吐息ひとつも撮り逃さない。緊張感があって(このサスペンス感は前作と通ずるものがある)ずっと画面から目が離せなかった。

そしてこの映画のメッセージ、(彼女達の、そして彼のでもある)“選択”や“自由”についての訴えは、包み込むように優しくて繊細で、同時にとても力強くて心が揺さぶられた。

そして名演。俳優がそれぞれ素晴らしい。
レイチェル・マクアダムスの清い真直ぐな瞳が、レイチェル・ワイズのときどきおどける表情が、そしてアレッサンドロ・ニヴォラの眼鏡の奥の慈愛と悲哀の眼差しが目に焼き付いてしまいます。


これより以下ネタバレにつながるかも🤭


モチーフとしてJews(ジューズ:ユダヤ)と同性愛の組み合わせはあまり観たことないので新鮮でした。歴史上Jewsは迫害され続けた民で、同性愛は社会的にマイノリティに位置づけられる。
この“迫害(差別)される側”の人達を対峙させる構図がよかった。
ドヴィッド(信仰心によって盲目になった人のシンボル)、がどんな答えを出すのか、答えを出せるのか、に注目したしそこにとてもリアリティがあった。

この映画で、Jewsの既婚女性が髪を剃ってウィッグを被らなくてはいけないこと、結婚したら子供をたくさん産むことが義務で毎週金曜日に儀式としての性交渉があることなどを知った。
彼らの生活は極端だし、時代遅れも甚だしいし自分には交わりようのないパラレルワールドに見える。
だけど(自分も含めて)皆それぞれ何かしらのコミュニティの中で生活していて、従っているルールがある。内側を向いていると気づかないけど外を向いて、それぞれ互いに向かい合えば違う世界が乱立している。

“異種”(自分からみた相手という意味)を受け入れる、という点において自分や日々の生活に引き寄せて考えることができる映画だった。
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