Daisuke

氷菓のDaisukeのレビュー・感想・評価

氷菓(2017年製作の映画)
1.8
映画は、推理物としては弱く、人間ドラマとしては浅い作品です。
ただ原作を薄くなぞっただけの売り出したい役者の商業用プロモーションビデオかなと。

もともと原作が映像には向かない作品なんじゃないでしょうか?
読んだことはありませんが、少年少女と大人の狭間にある高校生達の淡々とした日常的群像ミステリ。
自我がまだ不確立な男子高校生の人間や生き方を模索するような地の文をじっくりと読んでいく少し哲学めいた作品なんじゃないかと推察しました。
そんな日常で起こるちょっとした出来事や事件を通して変わっていく彼らをゆっくり楽しむ物語なんじゃないかと。

だとすると、それらを薄く伸ばす映画はエンターテインメントにもならず、ミステリーとも言えず、恋愛でもなく、人間ドラマとして見応えがないのは納得でもあります。

それを打破する為に映画として、もっと違うアプローチがあったんじゃないかと。
地の文のナレーションを多用するくらいなら、もっと映像で主人公の心の機微を描写したらいいのにとも思いました。
何の為の映像化なのか。語らず映像として表現できる部分も多かったように思います。原作をそのままトレースしたような脚本なら、映像化に価値はあるのでしょうか。

この作品には情感がないんです。味のない食事を摂った。そんな気分です。

・まず、最初に主人公に共感しにくい。

主人公は何故"灰色・省エネ"という価値観を持っているのか?過去に何かあったのか?思春期の繊細な心情なのか?
だったら、何故言われるがままに流され、あくせく動いているのか?私には映像を通して行動原理を読み取ることが出来ませんでした。あるのだとしたら、もうちょっと描写して欲しいと感じました。

そして作中を通して、彼らの何が変化したのかも分かりませんでした。あるのなら表現して欲しかったです。キャラクターに成長や変化があるから、事件という事象を描写するんではないでしょうか?
原作が持っているテーマや本質があるなら、ちゃんと読みといて映像化して欲しいです。
成長物語?青春群像劇?テーマは?この映画が何を描きたいのかがはっきりしません。

主人公の行動も私なりに、
''恋愛感情や人間を知りたいという知的好奇心。''
といった行動を裏付ける動機も推察できますが、最後までそのような描写を感じることがなかったので、そのまま終わって奇妙な感覚だけが残ったという印象です。

・芝居がアニメ調

フィクションだから仕方ないんでしょうが、全体的に芝居にリアリティがない。

リアリズムを突き詰めるのが良いこととは思ってませんが、本作はアニメ調、または、それを意識しすぎているのかなと感じます。

主人公の芝居は、フォーカスが世界というより、発話の対称にだけ向いた狭い感じ。ヒロインの妙にアイコン化された天真爛漫な感じ。冒頭の終始笑顔。友達のオーバーな表現。

人間の感情は事象毎にぶつ切りではなく、フェードやラッピングされた物だと思いますが、この作品のキャラクターの心情は少し画一的かなと。
全体的に縦も横も感情の流れに違和感がありました。まるで平安京の街並みです。かくかくしてる印象です。





でも、推理ヴァースの俯瞰した主人公を表現するメタ的な映像手法は悪くないと思いました。文章では出来ない手法ですね。
Daisuke

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