マクガフィン

ユリゴコロのマクガフィンのレビュー・感想・評価

ユリゴコロ(2017年製作の映画)
3.7
「人間の死」を心の拠り所にして生きる殺人者の美紗子(吉高由里子)の宿命と葛藤を、過去と現在の2つのエピソードで構成され次第に交錯していく愛と生死の物語。原作未読。

『散歩する侵略者』で愛の概念や対極を考える機会があったので、鑑賞するタイミングが凄く良かった。

無機質で感情が希薄な殺人者から母になった美紗子の明暗対比は素晴らしく、洋介(松山ケンイチ)と相乗する迫真の演技に。子役を含めた脇を固める役者陣の演技も高いのは監督の演技の演出が大きいだろう。松坂桃李は演技指導がある方が演技が冴えると思うし、子役の指導も的確で良い演出に。

生と死・殺、現在と過去、光と闇、優しさと厳しさ、愛と憎・無関心など様々な対極はあるけど表裏一体で見る視点や角度によって解釈が異なる。
愛だけが対極が曖昧なのは対極が統合されたものだからか。

殺生対象(虫と人)や殺人や死への対比描写が素晴らしい。美紗子の関わった死の背景や関連と結果が全て違うので、死生観を促され倫理について考えさせる。

食事・食べ物・料理で機微や繋がりを伝える趣向が冴える。みつ子への食事、美紗子と洋介の食べ物の譲り合いや繋がりの変化や、オムライスや挽肉などで言葉以外で場面を表現する映画の真骨頂を大いに堪能。美紗子が作ったオムライスは美味しく感じないのは人を殺しているからだろう。

親の因果が子に報う。息子へ異常な因果が紡がれいく。子供に限らず取り巻く人々の壮絶な運命、因果関係、刹那の生死、摂食障害は、「仏教」の哲学的な描写で知的好奇心を大いに満たす。

人間は共鳴し合う生き物だが、誰の心にも潜む狂気とそれを伴う愛は凶暴。作品独自な、やや重みを含んだような異様な空気感は、独自の世界を生み出していおり、これまで見たことないテイスト感覚に。殺人は理解や共感もできないが終盤には憎悪と抵抗が浄化されていく不思議な気持ちに。