パイベビ

拷問男のパイベビのネタバレレビュー・内容・結末

拷問男(2012年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

【拷問男】
※このレビューはネタバレを含みます。

本作は脚本・演出双方に問題があります。
褒めてる方が多くビックリしていますが、このレビューはケチョンケチョン評なので、この映画が好き!って人は読まないことをオススメします。


■演出面
演出面では大きく2点問題があります。

まず1点目。
本作の大きなテーマは「罪を犯せば罰せられる」「復讐は虚しいものである」だと思いますが、最後主人公が連行されるシーンで、
主人公は娘を亡くした後空間的にも精神的にも暗い場所にずっと居て、ということと対称的に、太陽が輝く明るい場所で娘と笑顔で愛の言葉を交わしながら幕を閉じる
というような描き方をすると、どちらかというと「虚しさ」よりも「達成感」や「解放感」に見えてしまいます。
つまりこの描写にしてしまう事で、「非人道的な行為を伴ってすら、復讐は良いことなのだ」という風に見えてしまう。
これに伴って、「罪を犯せば罰せられる」としても、それは自分が良ければオッケー。という風に見えてくる。

本当は救いが無いように見せるはずが、連行されるシーンをあのように演出することで、主人公は救われたように見えてしまいます。

そもそも、踏み越えてはならない一線を超えて自ら手を染めてしまうまでの葛藤・良心の呵責も描けていなければ、後述しますが自らの手で復讐しなければならないほどの動機の描き方が雑なので、作り手の意図に反してこの主人公元々ヤバいやつだったようにしか見えなくなってくるんですよね。

これが問題点の1つです。



そして2点目。
なんか肝心の拷問描写が言うほどでもない。
もちろんゴア描写が苦手な人からするとこれでも十分かもしれませんが、単純に見せ方が上手くないと思いました。
声を出せなくする、というのも痛がり表現を薄くする効果があるだけでマイナスに働いています。
声を出せなくするのなら、そのこと自体に別の機能を持たせることもできたはずです。
例えば、喋る機会も与えないまま拷問をし終えた後、実は犯人は別だった、というように。

ていうかクライマックスの6日目、娘の復讐の拷問が「歯を抜く」と「腕を切り落とす」って…
同じようなことをもっとエグい描写で『SAW』でやってませんでした?笑

『ムカデ人間』を連想させるようなパッケージデザインや、"拷問男"という何をか言わんやの邦題にするのであれば、拷問シーン全体がもっとおぞましく、正視に耐えないぐらいゴアになっているべきです。
観客はそれを期待して観賞するわけですから。
(つまり邦題も悪いと思います。)

後半の拷問シーンが退屈で、この映画を見終わる頃にはスマホをいじっている人が多かったのでは?



■脚本面
ストーリーが練られていて良い、という人もいますが私は全くそう思えません。
前述の演出面でテーマ性を描けてないないことは指摘したので、私が思う脚本面におけるもう1つの大きな問題を指摘すると…

この話をするのであれば。犯人を拷問をかけるなら。
今まで犯人がしてきた残虐行為、特に娘にされた描写を絵的に見せることは絶対にマストだと思います。

一応それっぽいことを犯人の日記を読むことで表現していますが、どれをとっても「自らの手で復讐する程にまで残虐か?」と疑問に思います。
逆に犯人が犯してきた過去の理不尽な残虐行為をしっかり描くことで、許されざる相手であることを強調できたり、復讐の動機を観客に納得させることができるのに。。

犯人による残酷描写がないまま、「社会問題を取り上げている」みたいなスタンスを取られても、いやいや、その社会問題のこと本当にちゃんと考えてんの?
と思ってしまい、最後のエンドロールにはイラっとしました。ていうか全然社会問題取り上げてるっぽく見えません。


あとは細かなツッコミを。

・母親は何のために出てきているの?
むしろ愛していた妻が死産し、娘を男手一つ大切に育ててきた、みたいにする方が娘を失った悲しみと復讐心が強調されるのでは。
母親無しでも成立する話です。

・刑事が無能、故に不要。
映画あるあるですが、捜査能力が低い無能にしか描かれていません。今時もっと捜査能力高くない?ていうか腕を切られるような殺人事件があったらFBIが出てくるんじゃないかな。
それと家に来るなら、バレるかバレないかハラハラサスペンスをやるとか、弟の似顔絵を見せても妙に冷静な主人公に疑いを持つとか、物語上このシーンに機能を持たせる事はできたはずです。
何もないあのシーンは本当に無駄だと思いました。

・犯人…
犯人、そのままかよ!!!
そのままなのは裏の裏をかく感じで上手くやれば良いと思いますが、普通に犯人を見つけて普通に拷問して普通に捕まって終わりなので、ごく普通のプロットになっています。
シンプルなプロットそれ自体悪いことではないですが、本作の場合は退屈なストーリーに終わってしまっています。

演出としても、今までの犯行がバレないぐらい上手いことやっていたようには見えないし、飲んだくれで怠惰なだけで、邪悪に描き切ってないせいでちょっと可哀想ぐらいに見えてしまいました。


・主人公が拷問に至る動機
これは前述の問題にも関係しますが、普通日記を読んだだけで拷問を、しかも自分の弟の拷問を決意しますかね?
そんな状況なら、確信に足る物証を見てからにするのでは。
なぜ隠しカメラの存在に主人公が気付くところまでは描き、その中身を確認するところは描かないのか。謎です。

そもそも殺人日記なんて書きますかね?
100歩譲って書くのは良いとして、そんな雑に保管しますかね?
てか日記て…チープでダサい。
例えば弟の異常性がなんとなく書いてあって、徐々に疑いを持つきっかけのためのアイテムだったらわかるんですよ。
それでも『セブン』のパクリっぽくてダサいけど。
そうでもなくご丁寧にダイレクトに犯行内容書いてるのどうかと思いました。

他にも細かいツッコミは色々ありますが、
もう既に長くなってしまったので割愛。



■総括
受け取り方は人それぞれですので、褒めてる人がいるのはわかるけど(いや本当はわかってないけど)、何をとっても映画作りに真摯に向き合っていないという印象を受けてしまいました。


仮に私のテーマの捉え方が間違っていて、悪い奴はやっつけるべき。復讐を楽しむタイプの映画だとしても、作りが悪いので結論は変わりません。

同じ拷問を取り上げるにしても、『SAW』や『ムカデ人間』のようにスプラッター描写を露悪趣味的に楽しむタイプの映画もあれば、『ドラゴンタトゥーの女』のようにミステリーやサスペンス、物語そのものを楽しむタイプの映画もありますが、本作はそのどちらも中途半端で、足して2で割ってしまったようなC級映画です。
イーライ・ロス監督作を観て出直してきてください。という感じでした。

グロいからオススメしません!(というかそれは褒め言葉。褒められる程グロくないです。)
ということではなく、単純に映画として不出来であるが故にオススメではありません。