MikiMickle

人類遺産のMikiMickleのレビュー・感想・評価

人類遺産(2016年製作の映画)
3.8
原題『HOMO SAPIENS』
監督は『いのちの食べ方』のニコラウス・ゲイハルター。

彼が4年の歳月をかけ、世界70ヵ所におよぶ“廃墟”を映した映画。
定点カメラで切り取られる映像には人は一切登場しない。原題がホモサピエンスであるにも関わらず。
テロップもナレーションもない。
ただ、ただ、廃墟が写し出される。

廃墟。
それは、過去のものでありつつ、かつ、人類が滅亡した未来のディストピアの姿にもうつる。
しかし、それは紛れもない現在。

写される廃墟は、緑が生い茂り、光が差し、聴こえるのは鳥のさえずりと風の音。朽ちた天井からは、鳥が舞い降り、木葉がひらめき落ち、雨が滴る。
風がおこすのは、落ち葉や紙たちのカサカサというハーモニー。
光の道が照らすのは埃の煌めき。
人の手を離れた建造物たちは生命力を感じ、まるで生き物のようだった。

そして、想像力を掻き立てられる映画であった。
学校・病院・映画館・プール・モール・オフィス・飛行機など、当時そこにいた人々の様が目に浮かぶ。主演である建物たちの、それぞれの物語、“彼ら”が生きてきた様を想像するのだ。
また、なんの建物かわからないものには様々な思いを巡らしもし、
これらの建物がどのように廃墟となっていったのかをも想像する。割れた窓から入り込んできたであろう種までも。

年末の軍艦島旅行ではみる事の出来なかったその内部は、人の生活を感じる虚無感と共に、割れた窓越し海の美しさを感じ、
アメリカの海に佇むローラーコースターにはセンチメンタルなときめきと美を感じ、
ドイツのザッケ・ヒューゴ炭鉱やベルギー冷却塔は異世界に入り込んだようだった。
ラストのアルゼンチンの“ヴィラ・エペクエン”は世紀末を感じざるおえないし、
雪山の山頂にたつブルガリアの“共産党ホール”はまるで『惑星ソラリス』の宇宙船のようで、胸のざわめきが止まらなくなる。

そして、後半に写し出されるのは、兵器のあと…チェルノブイリの大量のガスマスク……
これらに生命力を感じなかったのは、監督としての意図なのだろうか。最初にでてきた福島浪江町とのリンク…


人類は何を残すのだろうか。何を残していけるのだろうか。何を残すべきなのだろうか。
人類が捨てた廃墟が、私たちに語りかける…

考えさせられる部分がもちろんあったが、ただただ、心地よい時間をおくれもした。まるでそこに何時間もいるような臨場感。ずっとそこにいて、ボーッと時間をすごし、不意におこる風と、それによる動きを感じながら、その様子を眺める… そんな疑似体験。

あまりにも静かで、座席分前方から寝息が聞こえてくるほど。
この映画(と呼べるのか不確かなもの)を映画館で見れて本当に良かった。
MikiMickle

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