湯呑

私はあなたのニグロではないの湯呑のレビュー・感想・評価

4.5
ここには、3つの死がある。メドガー・エヴァース、マルコムX、マーチン・ルーサー・キング。いずれも、1960年代の公民権運動において、黒人の地位向上に努めた活動家達である。ジェームズ・ボールドウィンは、彼らの指し示した未来について語り、それを理解する事のできない白人社会に怒りをぶつける。激しい言葉の裏にはしかし、複雑な感情が見え隠れするだろう。
あくまでアメリカに留まり、全ての黒人達の苦しみを背負って戦い続け、その結果凶弾に倒れた3人に対し、自分は欧州に移住し作家活動を続けたインテリゲンチャに過ぎないのではないか。晩年に彼がアメリカに戻り、完成させようとした長編小説は結局、未完のままに終わった。ここに、人種問題の抱える厄介さがある。
本作で数多く引用された映画のごとく、白人の黒人に対する優位性を無自覚に肯定した能天気な作品が次々と量産されるのに対し、それに抵抗し得る作品を生み出す事には常に困難さがつきまとう。それは、前者が現実に対する無知と無関心を源泉としているのに対し、後者は現実と意識的に向き合う事でしか生み出し得ないからである。
もちろん、これは文学や映画だけに限った話ではない。現在のトランプ政権の「成功」が、無知と無関心を原動力にしている事は言うまでもないからだ。ボールドウィンの口から溢れ出る奔流の様な言葉は、こうした無知や無関心と戦う為の唯一の武器だった。
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