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散歩する侵略者の2049のレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.0
先日クリーピーを観てガッカリしたばかりなのであまり期待せずに鑑賞。今作はバッチリ楽しめた!今思えばクリーピーはリアルサスペンスだと思い込んで鑑賞を始めた僕の意識も少々悪かった気がする。

冒頭から何でもない風景にク不穏な空気が漂い、まさしく黒澤清映画が始まると思わされる。トラックの事故のシーンは思わず、いやいや、普通止まるでしょ!それで事故にはならないよ!と心の中で突っ込みをついつい入れてしまった…が、冒頭の凄惨なシーンのおかげでSF映画でありファンタジー映画なんだという気持ちで見れたのであまりノイズにならず。それと間抜けなBGMで、あぁなるほど、そんなに根詰めて観なきゃならないシリアスな映画ではないんだなと意識の切り替えも出来た。他にもいくつか突っ込みどころのある映画ではあるが、最後まであまり気にならなかった。映画鑑賞の際の心持ちというのはやはり大事だ…それをコントロールするのも作り手の手腕だと思う。

加瀬を演じる松田龍平はハマりすぎて松田龍平以外のキャスティングは全く想像できない。この人以上に表情の乏しく、多少の不気味さを内包したキャラクターを演じて合う役者は他にいないんじゃないか。妻役の長澤まさみも本当に良かった…いや良かったっていうか可愛い。ひたすら可愛い。「もう!やんなっちゃうなぁ」とぼやきながら加瀬の世話を焼くツンデレ演技が可愛いすぎる。全体を通して宇宙人と人類のシュールな会話劇を楽しむコメディだと言っていいと思う。「全く話が通じないんだ。一方的に噛まれた。犬には話しかけない方がいいな…」という加瀬のセリフには思わず笑ってしまった。

概念を奪う宇宙人という設定も面白い。仕事、家族、所有、自分と他人…概念を奪われた人々が電池の切れたロボットのようにへたり込み別人のようになってしまうという設定は良く考えられた素晴らしいアイデアだ。確かに上記の概念を奪われたら人間社会でまともに生活していくことは難しくなるだろう…また概念によって自分達がどれだけ見えない鎖に縛られているのかも巧みに描いている。
ラストある概念によって人類は救われることになるが、非常にシンプルで感動的な展開だった。切なくどこか温かい余韻を残す素晴らしい映画だと思う。他者と真摯に誠実に向き合い、解ろうとすることこそが世界中で起こる争いに終止符を打つことの出来るものではないだろうか。それこそが人類を救った概念の1つの側面だと思う。
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