陸でも海でもない

ミッドナイト・エクスプレスの陸でも海でもないのレビュー・感想・評価

-
                                                 


                         
面白いよこれ。さてどうしよう。あえて否定から入るかな。先にこなしておくか。正直古臭く見てて辛い部分は少なくない。声の演技はきつい、演技も一部大味でどうなのかなあと思った。音楽も大時代的で繊細さに欠ける。何より画面がすごい平なんだよね。光や陰、構図とかは考えて撮っているっぽいけど、明暗の深みが無いし、全体的に色が褪せていてつまらなく感情的に盛り上がらない。東欧中東アフリカ付近の土壁みたいにごつごつしていて色が淡く溶け合い、渋味はあるんだけど、映画的なダイナミックな色味が無く、調味料をガンガン掛けたくなった。


しかし本編はというと面白い。かなり面白い。昔の映画の癖にだらだらした所はなく最初から刺激的だし、始めて見るもの、みる場面が多く最後まで楽しめた。トルコの非情さや足の裏叩き刑、上半身を傷つけると重罪だからお尻の穴をねらって刺すシーンにはショックを受けた。なんてエギゾチックな体験。4人部屋の一人がひたすら嫌な奴で、彼に対してまったく救済処置がなかったり、仲間の薬中メガネや刑務所の設計図コピーを描いたジニー達にも救いがない事もかなりハードボイルドだ。

くだらない事だけど、昔アニメルパン三世で刑務所の動くサーチライトを見て、あれから30年くらいアニメの中で刑務所の動くサーチライト演出をで見て来たけど、ハリウッド映画とかの中であれを見た覚えが殆どなくて、ずっと不思議に思っていた。そんな中この作品で見て、あ!本当にあるんだ!って40年ぶりに邂逅した。予期せぬ場所で嬉しい宝物を発見をしたよ。アーニャワクワク。脱獄ハシシマン楽しいます。


廃人シーン、最初の体にハシシを撒いてドクンドクン言ってるシーン、最後の脱獄、おっぱい面会、切れて裏切者を芝き倒すシーンなど印象的なシーンが多いけど個人的に1番は主人公が裁判にかけられて30年を求刑されるシーンが一番脳裏に刻まれた。

「知らないのか?正義や罰には寛容な心も必要なんだよ」「この国は豚が沢山いるのに、誰も食べやしない」「お前ら全員豚だああ!!」。周りの9割は英語を理解できないだろうからもあるんだろうし、異国で不安になっているだろうし、主人公に同情する部分も少しはあるけど、それでも!しけた金の為に法律を破った密売人犯罪者主人公が、ここまで身もふたもなく自分を棚に上げて批判してるのを見て、声を出して笑ってしまった。日本の警察も、釈放だっと思わせたタイミングで延長を告げて、容疑者を絶望に叩きこむ非道が国際的に批判されているけど、それにしてもねえ。

数週間前に(おそらく2024/1頃)、富士山で朦朧としながら運転していたため、日本人ハイカー二人を跳ね殺し、禁固刑を求刑されていたアメリカ軍属が、バイデン大統領や米軍の力で日本の刑務所から移送され、「無事家族の元に戻された」事を思い出して胸糞悪くなってしまったよ。パクスアメリカーナ気分悪いな。勿論それはアメリカ固有ではなく日本にも、ロシア、ウクライナ、中国、韓国その他多くの国にも普通にあるんだろうけど。


映画の最後でレイプしにきた所長を若いシャアが串刺しにし制服を奪って逃げのびるけど、その時の夕日の色も70年代特有の褪せた色で、まるで感動的な終わりではなく、ゾンビ映画の終わりみたいな、どことなく懐疑的な後味の悪さを強調する終わり方で、そこもシビアで味わい深かった。