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芸人交換日記のaのレビュー・感想・評価

芸人交換日記(2011年製作の映画)
5.0
夢を叶える、とは。

 物語の最後に、主人公が夢を叶える作品はごまんと存在する。沢山の苦難を乗り越えたのち、夢にたどり着く姿は万人に勇気と希望を与え、生きる活力にもなるだろう。しかし、当たり前の話だが、夢を叶える人の数、いや、それ以上に夢を諦める人がいる。
 30歳を過ぎても芽が出ないお笑い芸人の二人。そんな二人の人生をつとめてリアルに、そしていつのまにか主人公を自分に重ねてしまう『芸人交換日記』という作品。
物語の主人公は売れないお笑いコンビ・イエローハーツの二人である。鳴かず飛ばずの毎日の中で、ツッコミ・甲本(田中圭)がボケ・田中(若林正恭)に交換日記をしようと持ち掛ける。拒否する田中を差し置いて、「売れるためにお互いに思っていること、本音を書け」と半ば強制的に始まった交換日記。信頼している人に裏切られたり、自分たちよりも若い芸人たちが売れていく現実だったり、しかし時にはお互いを褒め合い、文句を言いながら歩みを進めていくイエローハーツ。
 舞台上では二人が日記に書いた内容を読む、といった体で話が進んでいく。二人の軽快な会話を聞いていくうちにすぐそこにイエローハーツがいるかのような感覚に陥ってくる。芸人交換日記において、最も重要なテーマとして掲げられているのは「夢」だ。イエローハーツは地上波で冠番組を沢山持ち、全国に名を知らしめる売れっ子芸人になるという「夢」を持っている。子供の頃はあんなにも純粋に夢をみていたはずなのに、私たちは年を重ねるにつれて気付いてしまう。夢は必ずしも願えば叶うものではない、と。では、夢が叶う、言い換えると夢を成就させることにおいて必要なものは何か。話は冒頭に戻る。夢を諦める人の存在である。
イエローハーツが身を置いている芸人の世界では、夢を叶えられる者の席数は予め決まっているようなものだ。コンテストにしても、レギュラー番組にしても、数多の芸人の中から実力のある者だけが頂点に立つ。これはお笑い芸人の世界だけに限ったことではないが。
ここからはネタバレになるので、話の結末は実際に小説を手に取るか、汗と涙の滲んだ舞台作品を観てほしい。
結局、夢を諦めた甲本のお陰で田中は夢を叶えることができる。笑軍に出場したとき、イエローハーツでの明るい未来がいつもよりハッキリと想像できた。同時に、甲本はイエローハーツでの限界、つまり自身の限界を感じてしまう。甲本が手放した夢が、形を変えて田中の手に渡る。夢を叶えられる者の席数は予め、決まっている。
 芸人として苦労して夢を掴んだであろうオードリーの若林正恭さんと、俳優として着実に一歩一歩進んでいる田中圭さん。華々しくデビューしたわけではなく、実力を一つ一つ身に着け、結果に繋げてきたであろう二人が演じるイエローハーツには物凄く説得力がある。演技の部分で若林さんを引っ張る田中さん、漫才の部分で田中さんを引っ張る若林さん。それはまさに足りないところを補いながら我武者羅に歩む田中と甲本のようだ。そして物凄い量の台詞をほとんど噛まずに演じ切る二人の力にも純粋に驚く。ラストの天国漫才はまさに笑い泣き。イエローハーツとして売れる、という夢は叶わなかったけれど、「もう一度田中(甲本)と漫才をやる」っていう夢は叶います。
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