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8年越しの花嫁 奇跡の実話のレクのネタバレレビュー・内容・結末

8年越しの花嫁 奇跡の実話(2017年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

まず特筆すべきは主演の佐藤健さんと土屋太鳳さんの演技ですね。

尚志を演じる佐藤健さんはどこか気弱で、それでも心に一本芯の通った好青年を演じきり、頼りない感じに見えてもしっかりと相手のことを考えることの出来る包容力を感じました。
苦しい時ほど笑顔を見せ、深い愛情というよりも心が強い人なんだなあという印象です。

麻衣を演じる土屋太鳳さんは発症前後のギャップ。
明るくアクティブなイメージを覆すほどの発症時の迫真の演技。
回復の兆しが見えてからの尚志を見る表情はまるで別人のようです。
また、麻衣のご両親、尚志の職場の方々、ウェディングプランナー、周りを取り巻く人達も二人を想う気持ちが見て取れる。
恋人同士の愛だけではなく、二人を支える周りの愛も感じられました。

麻衣さんが発症した原因不明の病は「抗NMDA受容体抗体脳炎」というものだそうです。
別名「エクソシスト病」とも言われ、病院に運び込まれた時は目の色が変わり、まさに悪魔憑きのようでしたね。


タイトル「8年越しの花嫁」。
着地点の決まった映画では、その結果は安易に想像出来てしまうというデメリットがあります。
言い換えればオチが分かってしまっているわけです。
そんな中で、如何にその結末へと向かう過程を描くことが出来るか?が決め手となるわけですが、その過程ひとつひとつの細かな演出が素晴らしいんです。
そのひとつに視点があります。
一見、同じようなシーンを繰り返しているように見せながらもその視点を少しずつ変え、場面場面での意味合いを強めています。

初めは何気なく観ていたんですが、途中でふと気付かされるわけです。
感動のシーンなんかではこの演出が物凄く心を揺さぶられるわけですよ。
役者陣の表情ひとつ取ってもそう。
同時にその時の彼らの心境が垣間見えてくるんです。

折々の涙する場面が重なり、最後に携帯に送られた動画を見るシーンはクライマックスです。
今まで見せられていた映像全てがこのシーンへの布石なんです。
この8年という歳月を積み重ねてきた過程に涙が止まらなかったんですよ。


以下、余談ですが、この作品は単なるお涙頂戴映画ではないと思う部分がいくつかあります。

物語の始まり、二人が出会ったのは2006年。
その時代背景がしっかりと作り込まれていること。
服装や携帯は勿論のこと、初デートで駐車場に止まっている車の車種や麻衣の車。
細部に渡ってその時代に合った演出がされているんです。
そして、まさかの主人公の車がハチロク。
職場の社長が2000GT。
心地よいエンジン音に車好きも大満足間違いなしです(笑)

小豆島での2000GT納車。
このシーンは本筋としてはズレたシーンなんですが、尚志が麻衣のご両親から会わないでくれと言われてから自分の気持ちを再認識する貴重な時間なんですよね。
そしてその島の自然の美しさと心落ち着ける場所は終盤でのシーンに繋がっていきます。


ラストのシーンで出てきた小豆島のブランコ。
4つ並んだうちの1つが壊れていましたね。
これは尚志を含む麻衣の家族のメタファーで間違いないでしょう。
故障した1つのブランコを修理。
尚志が面接で語ったとされる
「壊れたら直せばいい。」
直ると信じる気持ちがあれば必ず修復できると熱く語られたように、一度は地に落ちたブランコも修理されて新しいものとして生まれ変わりました。

新しいブランコだけ、元あった位置よりも少し高さが低いのにお気づきになられましたか?
これはゼロからのスタートではなく、マイナスからのスタートであることを示したものではないだろうか。
麻衣さんの新たな人生のスタートを暗示すると共に、4つ並んだブランコは4人が家族として今後の人生を歩んでいくことを表したものでしょう。


グダグダと書き綴ってきましたが、本当にここまで泣いたのは久しぶりというか自分でもここまでグッと来るものがあるなんて思ってもみなかったんで驚いてます。
強引に泣かせようとしたものではなく、淡々と過ぎていく日常の中で映像により見せる細かな演出が自分の心を揺さぶったのだと思っています。
本当に素晴らしい作品でした。
昨年に観ておくべき映画だったかもしれません(笑)
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