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夜は短し歩けよ乙女の樹のネタバレレビュー・内容・結末

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

人の繋がり、とりわけ「ご縁」がテーマ。人の偶然の結びつきを肯定的に意味付ける考え方が「ご縁」であり、縁で繋がっている限りどんな虚しくおもえた時間も意味を持っているとして、全ての人と、人同士の関係を肯定していく。黒髪の乙女は、酒、古本市などをきっかけに、様々な人たちの間を渡り歩き、人の繋がりの尊さを知って、孤独や空虚さに悲しむ人たちを肯定してゆく。
 そして最後は先輩のもとを訪れ、最上級の繋がりともいえる、恋愛にたどり着く。

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 乙女の姉が言うように、作中の男は皆「腐れ外道かド阿保」。
 先輩は、性欲や社会の風潮に流されるし、「ナカメ作戦」や絵本、劇への飛び入りなど人為的な縁を作ろうとする、言ってみれば外道かつ阿保ですが、最後は自らの醜い側面に打ち勝ち、純粋な恋愛に目覚める。その様は感動的でした。脳内で葛藤しているにすぎない視覚的には地味なはずのシーンを、脳内会議やジョニーの暴走など、大胆な視覚化でダイナミックに誇張して見せてくれます。ジョニーは恐らく、暴走する性欲のアレゴリー。彼が扉を破って飛び出す場面は、その勢いにあっと驚きました。男の滑稽な側面がこんなに凄まじいビジュアルになっていることに驚きです。

原作小説を読みましたが、原作からの改変はとてもいい。とりわけ四章の話を一夜にまとめることで、夜という時間が持つ感覚を一層強化しているのは素晴らしいと思います。
 寝れば何事もなく一瞬で過ぎる夜。しかし外を歩けば、「魅惑の大人世界」想像以上に長くて濃い時間に感じるのです。特に若者にとって、夜とは最も身近な非日常でしょう。奇想天外なことが起こるのも、夜の非日常な感覚と重なって納得がいきますし、それどころか、より夜のシズル感が醸し出されています。その感覚自体もこの映画の魅力の一つになっています。
 また、竜巻、汽車などの要素に、より強い意味や伏線としての役割が与えられているのは見事です。風邪が伝染するルートもしっかり描かれていて、注意して見ると納得がいきます。細かい要素の組み替えも原作からの良いアレンジに思います。

視覚的には、さすがの湯浅さん、アニメーション表現はハッキリと個性的で、期待以上でした。
 李白の船(電車とも言ってる。どっち?)の光が建物の隙間から差し込んで、動いていくカット。
 お酒やラムネなど、飲料類の、光っている感じ、そして偽電気ブランのボヨンとした物質感。
 でかい鯉を背負ってたり。鍋のカエルやヘビの幻覚であったり。七色の吹き流しなんかは、小説の時点でもなんだそれって面白がれますが、視覚化されたことで一層その光景のぶっ飛び具合が楽しみやすくなっています。
 それから、原作でメタファーとして書かれたところが、そのまま画になっているところも新鮮に見えます。例えば、古本市を海底に例えたところを、アニメーションで辺りに水が満ちていくように描いて見せるなど、思わず感嘆してしまう大胆さでした。
 一つ一つの表現が印象的で、つい挙げてしまいましたが、あまりに多くの目立つアイディアがあるため言い尽くせません。
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