てぃだ

マッドマックス 怒りのデス・ロード ブラック&クロームエディションのてぃだのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

基本的に自分が「同じ映画」を再見することはない。「見ている間に疲れて眠ってしまった映画」とか「友達付き合いでもう一度見るハメになった映画」なら話は別だけど。どんなに気に入ったとか感動した映画でも、映画館にもう一度見に行くことはまずない。自分の経験上、行ったところで初見以上に感動したことはない。巷でよく聞くリピーターの方々はほんとによくもあんだけ同じ映画で感動できるもんだと感心するぐらいだ。世の中には一生かかっても見切れないほど見たい映画や読みたい本がうじゃうじゃしている。自分があと何年生きられるかも分からない。ヘタすりゃ明日ないし1時間後には死んでいるかもしれない。死ぬまでにあと何本の映画が見られるかわからない。それを考えると「同じ」映画にまた時間を使うなんて僕は嫌だ。何度も同じ作品を見て感動している人は、作品それ自体に感動しているというよりも、「その作品に感動した時の過去の思い出」に浸っているだけのような気がする。僕は映画を見るのは好きだけど、同じ映画との出会いは1回ポッキリで十分だと思っている。1本1本との1回きりの時間を大事にしたい。もちろん何十年か後にまた見直すことはあるかもしれないけど、それは別に今日明日や一週間後、3年後でなくてもいい。





『マッドマックス/怒りのデス・ロード』が公開された当時、僕はアメリカの田舎にいた。んでラッキーなことに日本公開よりも先にアメリカの小さい映画館、それこそ1本しか映画を上映しておらず、毎週新作が変わるようなとこで本作を見た。このシリーズを未見だった僕にとってこれが初めての『マッドマックス』の世界だった。もちろんアメリカの映画館だから、字幕があるわけでもない。字幕なしで洋画を理解できるほど英語が聞けるわけでもないけどそんなに問題はなかった。だって基本的にこの映画、追いかけっこしてるだけじゃないか。主人公たちと悪役が命がけの追いかけっこを延々と繰り広げてるだけ。別に字幕がなくても大体どいつが善玉でどいつが悪玉かぐらい容易に見分けがつく。容姿だけでも割と善玉悪玉分かりやすい。改造車が爆音で暴走し、クラッシュし、その連続が延々と繰り広げられるだけ。シンプルイズベストを究極まで極めたような映画だ。





ただ困ったことに、僕は酔った。もともと車や船に乗ると酔いやすい身体ではあるのだけど、あまりにも激しいカット割りが続く映画をも見ただけでもたまに酔ってしまうことがある。目の前で繰り広げられているアクションは、今まで見たことがないほどのド迫力なそれで、確かに熱狂的なファンが大いに喚起するのも分かる。監督が自分よりずっと年寄りのジイサンってのが信じられないぐらいキレキレの若々しいアクションにビックリ仰天。後にアカデミー賞の作品賞候補に挙がったと聞いた時には流石に「?」とはなったものの、技術賞の総なめ状態は大いに納得だったし。これを見てしまったら、しばらくは他のアクション映画なんてとても見られないんじゃないかってほど容赦ない重量感溢れるぶつかり合いにスピード感、男はもちろん女だろうが妊婦だろうが老婆だろうが容赦なく血を流すし死ぬときは死ぬ。敵も味方も平等に死ぬときは死ぬ。グロテスクでただただ気持ちが悪い造形の悪役に、もはや虐げられた女たちが反旗を翻す女のためのアクションだったことには心底驚いたけど。





そんなこんなであんまり楽しめなかった『マッドマックス』のモノクロ版が登場。何で僕がオリジナルを好きでもないくせにこれをチョイスしたのかというと、時間の都合。と、僕はモノクロ映画が大好きだから。別に「今の映画」はみんなクソで「昔の映画」が素晴らしいとかそういうジジくさくて偉そうなことは思ってない。単純に僕は映画はカラーよりモノクロの方が好きだ。後者の方が映画の世界に入り込みやすい。映画はファンタジーであることは百も承知なのだけど、それでもやっぱり普段見ている色とりどりな世界溢れる画面よりも、普段見慣れてない白と黒の画面の方がすんなりと物語の方に集中できる。色付きだと余計なことを考えやすい。情報は少ないより多い方がいいというのは今の世の中の常識かもしれないけど、あんまり与えられる情報が多すぎると余計なことを考えてしまう。それは時として吉とならない。「物語」そのものに集中したいならやはり「2D」で「白黒」で「無声」というようにできるだけ提供される情報が少ない方が映画を見る分にはいいと僕は思う。作品にもよるけど。





でモノクロ版になったら変わるのか。結構疑心暗鬼だった『マッドマックス』。サイコー。本作がどんだけスゴイい映画かはもうファンやプロの批評家の皆さんがさんざん語っているので僕は特に言わないけど、あらゆるものが見えるわけではない世界になったおかげで、前見た時よりより一層物語に入り込めた。相変わらず本来の主役であるはずのマックスよりもSセロンの方が表だってしまって「女の戦争」映画になっていたり、最後までマックスと敵のボスの接点がなかったりと気になる点はあるけど、無問題。ひたすらアクションと世界を楽しむ。今回は免疫がついたのか酔うこともそこまで酷くなかった。流石にかなり疲れたけど。映画を3Dリバイバル上映っていう流行は、一時期ほど盛んじゃなくなったけど、こんな風に、もともとカラーで作られた映画を「白黒」でリバイバルするってこれからもどんどんやってくれてもいいんじゃないかと。少なくとも僕のように「映画はやっぱり白黒に限るよね!」って人も結構な数いると思う。『007/カジノロワイアル』『シン・ゴジラ』あたりの白黒リバイバルとかすごくいいと思うんだけど、どうでしょう配給会社の皆さん。ご一考のほどよろしくお願いします。
てぃだ

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