青二歳

パ・ド・ドゥの青二歳のレビュー・感想・評価

パ・ド・ドゥ(1968年製作の映画)
5.0
2000markのキリ番には久々にバレエ作品をレビュー。アニメーター&実験映像作家として名高いノーマン・マクラレンはバレエ作品を三つ残しています。
優れたアニメーターはコリオグラファー(振付家)である。そう思わせてくれたのがマクラレンです。その意味では、マクラレンがダンスの中でもとりわけバレエに惹かれるのは必然でしょうし、バレエダンサーを使ってアニメーションを製作するのも必至のことでしょう。

【見どころ】そもそもパ・ド・ドゥの美しさを素直に観ても見事です。パ・ド・ドゥとは二人組の踊りをいい、バレエでは普通男女ペアです。特にクラシックバレエでは性差は絶対のもので、これは西洋ならではですね。歌合わせのような婚姻に関わるフォークロアな踊りならまだしも、体系立てられた舞踊形式で必ず男女ペアで踊らなければならないダンス形態は世界的にも珍しいものです。
抽象的なパ・ド・ドゥですが物語性はあります。誕生の喜びに踊る女が、ひとりの男に求められる。女は他者の存在の登場にためらい逃げてしまう。しかし触れ合う中で愛を知る二人。
他者との距離が縮まり、男女が重なっていく様を描くダンサーの表現力を楽しむだけでも十分見応えはあると思います。

もちろん見所はマクラレンの特殊撮影技法なのですが、オプチカル・プリンターで処理された映像というと昔ながらの特殊撮影の効果なので(円谷英二とか特撮の技術者が使ってた装置)、デジタル合成やCGによる描画が主流の今となっては、どこが斬新なの?と思われるかと。
撮影技法としては、フィルムをコピーして、それを一定時間(数秒)単位でずらしているようです。反転や反復も見られます。
陳腐と片付けられる方も多いでしょうが、しかし今作は見れば見るほど見事な作品です。何がすごいって、マクラレンの特殊効果によって私たちがバレエに期待しているものを浮き彫りにしてくれることです。マクラレンがバレエに造詣の深いことがよく分かります。なのでバレエやダンスが好きじゃない人が今見ると「陳腐」で片付けられる事と思います。

私たち観客が舞台上で何を観ているのか。訓練され矯正されたダンサーの身体、超絶技巧、御伽噺だけでなく抽象的概念さえ表現するダンサーのパとマイム。それらすべてはバレエダンサーの描くパの"軌跡"を観ているということに他ならない。その事を思い出させてくれる佳作です。
特に"未来"の残像をフィルムに写し、ダンサーのフォルムがその“未来”に向かってカチっとハマるところ。…感動しますね。最初はおお〜っと感心しただけですが、何度も繰り返し観ると感動しました。
“未だ来らざる”時間とは不確定なもの。しかしバレエダンサーの描く軌跡は振り付けに忠実になぞられる。その正確なパは、確定された“未だ来らざる”瞬間に到達するー
少なくとも観客側に立てば、私たちはその確定された未来を期待している。正確なポジションで着地しなければ乱れたと思うのです。もちろん期待を裏切る超絶技巧に出会った時には感激しますが、それも厳格なパがあってこそ。
今作を観ると次に行くバレエ公演が楽しみで仕方なくなります。

なお振付はリュドミラ・シリャーエフ(Ludmilla Chiriaeff)。この時代のカナダのバレエシーンはロシア系の名前が目につきますね。ロシア革命と第一次世界大戦で亡命ダンサーが生まれてしまったおかげで、バレエの歴史のない北米、豪州、日本にもハイレベルなバレエメソッドが持ち込まれたわけだなぁ…と、そんな事にも想いを馳せる作品でした。
まぁ…バレエファンとして見るかアニメーション好きとして見るかで大分迷うところもあるんですが。これはマクラレンのアニメーション作品として観るからの完成度であって、純粋にバレエ作品として観るにはクドいんですよね…この感じはちょっと伝えられない…バレエわかる方にだけでも伝われこのモヤモヤ。
さすがにプロムナードとか目がチカチカします…
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