鰹よろし

インバージョン 転移の鰹よろしのレビュー・感想・評価

インバージョン 転移(2015年製作の映画)
2.9
 現状のSNSの普及を前面に押し出して作られた「パンデミック・サイト」(2013),「最/終/感/染 アンチソーシャル」(2015),「セル」(2016)といった作品に対し、サマーキャンプという人里離れた場所におけるSNSが見えない状態で描き始めることで、まず直接相対する人と人との物理的な距離感を印象付けたのはうまい。いつの世もあっただろう目の前にいる人と人とのわだかまりとその解消を余所に各々抱えている孤独というものが際立つ。

 記憶喪失のアダムから話は始まるが、彼が記憶を取り戻す上で、自らの土台を構築する上で、自分という存在を保とうとする上でまず思い浮かべたのがFacebookやインスタグラムのフォロワーの数だった。これこそが彼のアイデンティティの根源であるとする一方、彼はそこに決して埋めることのできない空虚さを抱いており、毎夏キャンプに参加し女の子を貪り喰らうことでほんの一時自らの穴をも埋めている。

 身体を重ね合わせたところで埋まらない溝、いやむしろ身体という器こそが人と人との障害になり得る…というのはもちろんあるのだろうが、感覚の共有にて自らの体内に自らのイチモツが挿入されている感覚というのが、自らの空虚さを埋めるとする示唆の一環だったとしたら大絶賛。

 誰かとの繋がりを求めSNSに依存傾向のある昨今、繋がりを広げる一方で一向に埋まらない、いやむしろ広がってさえいるぽっかりと空いた心の穴へとうまくアプローチしたのではなかろうか。
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