樹

夜明け告げるルーのうたの樹のネタバレレビュー・内容・結末

夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

進路に悩む少年少女が人魚との出会いを通じて成長し、周囲の大人と分かりあい、自分の道へ踏み出す。
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人魚は人々に、愛を伝えれば分かり合えることを教えてくれる存在であり、同時に自由な海からの使者として、閉ざされた者、囚われた者たちを解放してくれる存在でもあるようです。
 外海、人魚、歌と踊りが新しい世界への解放のイメージとして重なり、軽やかな和音を響かせます。

期待通りと言うべきか、アニメーションで魅せる場面の迫力はものすごいです。海での、視界全体がうずしおに揉まれたかのような躍動。色彩そのものが生きているかのような豊かな動きに、視覚表現の一つの理想を見ました。
 空間の描写も印象的で、上下の移動を積極的に見せるようにデザインされていることが目立ちます。各場所やその位置関係は結構こだわって作られているのでしょうか、場所の意味を考えるとなお空間のシズルを感じられそうです。穴の空いた岸壁も絶景で、好奇心を掻き立ててくれました。
 海と山、岸壁に縁取られた空間で、それゆえの閉塞感もあるが(場所のイメージと人物の心境との関係は言うまでもない)、閉じた場所の心地良さや幸福感もある。また、海底から岩の上まで上下の柔軟な空間移動も描かれ、空間のスケール感が際立っています。
 そんな舞台が巨大なライブコンサート会場と化す「歌うたいのバラッド」のシーンはやはり感動しました。
 キャクターが気持ちを解き放つ瞬間に大胆なビジュアルを添えて感動を生むあたり、湯浅さんらしいのではないでしょうか。

と面白がれた点はありつつ、しかし本音を言うと、どうにも私とは波長が合いませんでした。部分部分の展開やそのリズム感が気持ち悪くて乗れなかった。
 人間描写に現実味はあまりないのですが、そのことが良く活きていないように思われます。
 例えば、冒頭、明らかに異常なまでに俯いているカイに対して、ユウホとクニオの全くお構いなしに話すさまに違和感があり、引っかかります。
他にも、水が浮き上がるという人魚の起こす超常現象を初めて目撃したのに、ボートを降りる頃にはもうバンドの話に戻っているのも、あっさりし過ぎて変でした。
 具体的な町のモデルがないからか、訛りも中途半端で、それもあまりしっくり来ません。
しかも、面白い表情や仕草はあるのですが、シーンには合っていなかったり、リズム感がイマイチだったりします。ルーと出会う過程も、脚本含め魅力を感じられません。
 こんなように、合わないと感じたわけは各部分の問題になるのですが、それが場面ごとにずっと続くので常にムズムズして落ち着かない気分でした。

しかし私は湯浅さんの作風は好きなつもりでしたので、鑑賞時の私の精神状態が悪かったせいだ、という可能性に期待しているところです。
もう一度見たら、もっと素直に面白がれるのかもしれません。
樹