湯呑

オン・ザ・ミルキー・ロードの湯呑のレビュー・感想・評価

4.3
映画の冒頭、屠殺人が鳴き喚く豚を引きずり、首を切り落とす。溢れ出る血を容器に移すと、家鴨達が次々と血の中へ飛び込み、その白い羽が赤く染まっていく。鮮やかな色彩に溢れた本作で、一際目立つのはこの白と赤の対比である。この冒頭場面は、映画のクライマックス、地雷地帯を進む白い山羊達が次々と爆死し、血と臓物を撒き散らす場面と連携しながら、無垢な存在(白)が理不尽な暴力(赤)に蹂躙される様を象徴的に描き出す。しかし、果たして白と赤は対極に位置するのであろうか。屠殺人が豚の血を容器に移す姿は、主人公とその恋人が山羊の乳を容器に移し換える姿と鏡像関係にある。実は、彼らの中にある無垢そのものが、暴力的な死を招き寄せているのではないか。ミルキーロードを歩む主人公が配達するのは、白いミルクだけではない。思えば、主人公は最終的にその愛を拒絶した花嫁候補に、輸血という方法で、自らの血を移し換えていたではないか。彼は、血にまみれた大地に白い石を敷き詰める事で、自身が血の配達人であった事実を隠ぺいしようとする。和平条約が締結され、束の間の平和が訪れた大地の下には、禍々しくも赤い血が湧き出る予感が潜んでいる。白は、いつでも赤に染まる予兆をはらんでいるのだ。
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