はぎはら

オン・ザ・ミルキー・ロードのはぎはらのレビュー・感想・評価

4.0
クストリッツァ監督作品初鑑賞。独特の語り口に引き込まれた。

とある国の山あいの村では、長い間戦争が続いている。映画は、戦争の傍らに動物や自然と共に育んできたその土地の暮らしがあることを伝える。

この映画も「この世界の片隅に」と同様に、戦争で多くのものを失いながら、それでもその土地で愛を貫く男と女の物語だ。

作品に横溢するイマジネーションと笑いと民族音楽のリズムが戦場の村を祝祭空間に変貌させる。銃撃と花火の音が交差する。
休戦の締結を祝う村人たちの宴や結婚式の晴れやかな情景はこの映画の最もみずみずしく心踊るシーンだ。

異国から流民としてこの地にたどり着いた美しく妖艶なイタリア人女性をモニカ・ベルッチが演じる。音楽の才能を隠し、ミルク運びで生計を立てる風変わりな村人コスタは、戦争によって肉親を失っている。

同じような境遇の男と女が出会い、恋に落ちる。男に頼まれ絞ったミルク缶を胸に抱えて、男を追いかけるモニカ・ベルッチの姿は、「初恋のきた道」の娘チャン・ツィイーが草原の道を走る姿を思い起こさせる。年齢も雰囲気も違うが、男に対する一途な思いが伝わってくる。

花嫁と呼ばれるモニカ・ベルッチは、戦争の英雄である義兄と結婚するはずであった。悲恋となるはずだったが、思わぬ殺戮が起こり、コルサは花嫁を連れ出してあてのない逃亡を企てる。

ここからは、逃亡劇を通じて、戦争の無慈悲さを炙り出す。上官の命令に従い、機関銃で村人を一網打尽にする兵士たちの集団に、動物や蜂、蛇、はやぶさの力を借りながら対抗するコルサの生き抜く力!

曰く言いがたい結末は、世界のどこかの片隅で起こっている現実を映し出している。
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