シソウメ

サスペリアのシソウメのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
3.0
過去の芸術性の高い実験的ホラー作品のリメイク。
ファンタジー色の強い過去作品を、リアリティと政治的メッセージを織り込み、スタイリッシュに再構築した作品。

正直、別作品。
個人的に「リメイク」で別解釈をするのは構わないと思うけど
別作品にしてしまうのは失礼だと思う人間なので、見てる内に斜に構えてしまった。
そもそもリメイクに踏み切った理由や発端を知らないので、のっぴきならない事情があったのかもしれない。

そういう意味では、別作品になりつつも映画として恥ずかしくない、むしろ高次元の作品に仕上がっているのは間違いない。
それについては素晴らしかった。

陰影表現、ゴア描写、時代考証、暗喩、展開、カメラワーク、編集、役者の芝居
どこを取っても実にレベルが高い。

だが、「サスペリア」ではないのだ。
過去作品も正直、めちゃくちゃ面白い!というわけではないし、ストーリーもかなり雑なのだが
映像の色使いや構図、編集などはポップアートなどが評価されてきたあの時代だったからこそ、というのもありつつ、今見ても尖っていてカッコいい。
(編集については雑な部分もある笑)

「サスペリア」を謳っているが「サスペリア」ではない、というのが個人的に重要のためスコア低め。
しかし、同じものをやっても仕方ないという意見もよくわかる。
でもそこは…という完全に個人的理由。

内容については正直難しい作りとなっている。
時代背景と魔女の成り立ちなどなど、少なからず知識があると楽しめる。
しかし、多少は映画内で説明をしてくれるので、なんとなくでも観られるのでご安心を。
監督の真意や表現を理解したければ、深く勉強が必要。

ちなみに私には教養なんてなかったです。笑

色々な考察や解説を読み、この作品の質の高さは理解したのだが
とにかく描写は不親切だし、メッセージ性や芸術性を高めた結果、非常にわかりづらくなっている。

魔女の会話があるが、まだキャラクターが出揃っておらず名前もわからない状態で、声のみのブラインドトークがある。
誰と誰が話しているのか、まず分からず、内容もその時点では理解できない。
その内容を覚えておいて後から照らし合わせていくのは至難の技。
吹き替えとか、役者の声が分かれば良いのかな? まぁわからなかったよね。
皆さん同じような喋り方してるし、キャラがまず出揃ってなかった気がする。

時代背景、そして魔女の組織体系とナチスの組織体系の暗喩などリアリティを追求した結果、ファンタジーとの間に大きな溝が生まれてしまった。
しかもそこに政治的メッセージを練りこんでいくスタイル。

いろんな人が言っているが、他人の作品をリメイクするという時にそんなもの織り交ぜるのは如何なものか。
原作リスペクトがあっても、作品のレベルが高くても、巻き込む配慮のなさにはガッカリという感じ。
自分の作品でやれ、と思う。

最終的な救いのシーンも、ファンタジーがベースにある為、リアリティを追求してきた先にあるせいで非常に受け入れ難いし、そこの調和に関しては受取手への説得力は皆無。

リアリティを濃くした結果、スーパーパワーはあれど普通の人間に苦戦するヒーロー作品みたいだった。
どっちやねん、っていう。
だから感動なんて出来なかった。

ティルダ・スウィントンの3役も、不必要なファクターに感じた。
フェミニストに配慮したのか、作品の引きにしたかったのか、作品内の男性像の描き方に意味を持たせたのか…。
そこは分からないが、「スノーピアサー」の方が効果的な使い方をしたという印象。

『え?あれティルダ・スウィントンだったの?すげぇ!!』ってだけ。
確かにすごいけど、今回そこについて一番評価されるべきは特殊メイクのクオリティである。

この映画の素晴らしいところはたくさんの方が解説されてますし、考察も納得のいくものばかりですのでそちらをご覧下さい。
結果、不満点ばかり挙げてしまいましたが…。

同監督の「君の名前で〜」はリアリティと叙情性が非常にバランスが良く、特有のナルシシズムが綺麗に作用していて素晴らしかった。
しかし、今回は悪目立ちしてしまった気がする。

人体崩壊シーン、人体を運ぶ針、狂気殺人パーティに関しては発想もぶっ飛んでて素晴らしかったし、カタルシスを感じた。
赤で表現してたのもリスペクトがあって良かった。
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