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羊と鋼の森のERIのレビュー・感想・評価

羊と鋼の森(2018年製作の映画)
3.4
これまで見てきた世界が一本に繋がるみたいな、まるで今まで知ってる全部がガラガラと音を立ててひっくり返るようなそれ。外村くんは高校生活のなんてことないいつもの日、ピアノの調律と出会う。体育館で。まるで世界がひっくり返ったみたいだった。

原作を読んだ時もなんだかふわふわと主人公と一緒に森の中をさまような物語の展開だなと感じたのだけど、映画にも健在だった。何か心を奪われるような出会いから歩き出す入口の前は、いつだって森のようなのかもしれない。どこに向かうのだろう。たどり着けるのか。光はあるのか。歩いた先にあるものは何。わからないけど、踏み込まずにいられない。


山﨑賢人くんを見ていると、過去作品の「管制塔」のことを妙に思い出してしまった。とても大好きな作品なのだけど、物語の舞台が北海道だったり、音楽を真ん中に置いた内容であることも、なんだか少しリンクして懐かしくなる。あの作品の時から大人の顔になっていて、しみじみ。

外村は北海道の森に育てられた。植物の名前や木の触感、どれが食べられてどこに行けば出口があるか知っている。

映画ではピアノの音が響いて、豊かな音楽が観客を包む。それは静かで、踊り出すようで、聴くものの背中を押す。

三浦友和さんって、本当に素敵な年の取り方をされていて、そのことに見惚れてしまった。とても原作にぴったりな配役。

「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体。」(原民喜)原作でも泣いたけど、映画でも胸がぐっとなる。何かを一つ一つ積み上げていく仕事を目指す人に、道しるべみたいな文章。

慣れない調律に打ちのめされたお客さん先からの帰り、大切な道具とお祝いをしようと板鳥さんが言うシーンが好き。とてもいいシーン。弟とおばあちゃんにお別れを言うシーンも良き。
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