黒田隆憲

イット・カムズ・アット・ナイトの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

最新作『WAVES』が話題のトレイ・エドワード・シュルツによる前作。これ、2017年公開というのが実に感慨深い。コロナウィルス禍の只中にいる我々の「恐怖」や「不安」「疑心」を、最も醜く最悪な形でカリカチュアした風刺映画とでもいうべき内容に仕上がっているからだ。

起承転結の「起」と「結」を省いて受け手を緊張感の只中に突き落とす系の映画は数あれど、ここまで(いい意味で)不親切なストーリーはなかなかない。一体、世界に何が起きてこの一家は人里離れた森に暮らしているのか。彼らが「それ(it)」と恐れているのはゾンビなのか感染病なのか。あの「赤い扉」を開けたのは一体誰なのか。ウィル(クリストファー・アボット)一家は本当に病気になっていたのか。次々と湧き上がる謎をこちらには一切明かされぬまま、強烈な余韻だけ残して幕を閉じる。

「結局、怖いのはゾンビでも疫病でもなく、人間の心だ」なんて、もう何百回、何千回と使われたフレーズをここでまた言いたくもないが、「家族」とは何か、「信頼」とは何か考えざるを得ない映画だった。

トレイ・エドワード・シュルツという監督は『WAVES』の時もそうだったけど、父親に対する複雑な思いが創作の大きなモチベーションとなっているのは間違いない。家族を守ろうとするがゆえ、かえって家族を傷つけ崩壊させてしまうポール(ジョエル・エドガートン )の姿は、自分の父と重なり観ていて辛かった。

トラヴィス役のケルヴィン・ハリソン・Jrがよかった。『WAVES』で主役に抜擢されただけある。あ、あと犬がかわいそうだった😭😭😭😭
黒田隆憲

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