マクガフィン

火花のマクガフィンのレビュー・感想・評価

火花(2017年製作の映画)
3.2
漫才の世界で結果を出せずにいる男と先輩芸人の10年間の軌跡を描いた映画。原作未読。ドラマ未見。

天才肌芸人の桐谷と常識的芸人の菅田の対照的な対比で、菅田目線な設定が良い。
冒頭の2人が出会った夏の熱海の祭りの色彩の濃さが印象的に。菅田の鮮やかで活き活きとした憧憬を表現しているように解釈し、心理描写に情景を盛り込む撮影が作品を通じて行われる。吉祥寺の情景も良い。

何気ない会話のやり取りの中に込められたユーモアが漫才を象徴するようで小気味よい。芸人ドラマだが笑いに特化する演出ではなく丁寧な仕上がりで、切なさの中に温かみが混在した作風に。

菅田はハマリ役で桐谷との相性抜群。脇役で相方の三浦誠己の対照的な味を出して良いが、典型的な巻き込まれ型でそれを象徴するような職業の木村文乃の設定は古すぎてどうなのか。

逆の状況になった重要なシーンでの桐谷の住まいや女性の対比や部屋の暗さはわかるのだが凝り過ぎた美術ディテールは邪魔で、共依存の心象風景を髪型と髪色で代弁するのは良いが、尊敬から愛憎入り交じる軽蔑への心理の経緯や変化がイマイチ伝わらなく、クライマックスの漫才への繋がりも希薄に。

その漫才は、「反対のことを言う」ことはありがちな演出だが演技力が抜群に良く引き込まれる。また反対は題名や作品にもかかっていてセンスが光る。儚く灯る火花は刹那な時間の最後の光に。

終盤の熱海は冒頭の熱海との対比の撮影シーンは良いが、作品を通して所々のユーモアが、生業・困窮・懊悩・悲哀・焦燥等の負の出来事を中和するので、温かみは感じるが情緒的な味わいが足りなく抑揚の少ないモキュメンタリー風な展開になってしまったのが残念で、もう少し負性を描いたりして映画的な演出も必要だったのでは。

純文学的要素や起伏が足りないことを役者達の熱演で補うような印象が残念。