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マザー!のmittskoのレビュー・感想・評価

マザー!(2017年製作の映画)
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きわめて、きわめて高度な「宗教」映画…! それを最初から覚悟して観た人だけが、本作がいかに傑出した作品なのか、知ることができましょう。油断してふらりと観てはいけない作品です…(`・ω・´)

それにしても、すっごい豪華な演者陣! こんなにも非娯楽的な、興収がほとんど見込めない映画に、よくもまぁ高額ギャラ俳優をズラリとそろえたもんだ! 筆頭Pはアロノフスキー自身だから、私財を投じた部分がかなり大きかったんじゃなかろうか…

最初から最後までずっと観客を不快にさせる作品。アロノフスキーは『π』『レクイエム…』という偉大なる「不快になるだけの映画」を観せてくれたわけだが、本作の不快さはまた別物だ。ここで実写映画として(つまり、アロノフスキーが愛するアニメーションではなく、という意味だ)描かれるのは、具体的な場所も時代ももたない、特定可能な社会と事件を欠いた、象徴だけが満ちる「夢」だ。それが悪夢であるのはアロノフスキーの作家性だが、象徴界が見事に描かれるということ、それだけでもう、観客に不快感を与えるのには十分なのである。

本作は徹頭徹尾、寓話、象徴劇であり、タルコフスキー晩期を思い起こさせる。この寓話は、明確に神話的なもので、軸となるのは天空父神(ファーザー)と大地母神(マザー)の二柱。前半のクライマックスが明確に創世記をなぞっているところから、アロノフスキーの脚本は明確な意志をもって、ユダヤの神をそれらニ柱と置き換えようとしているのがわかる。後半は福音書の翻意(そりゃあ、映画会社も公開規模の拡大に慎重になる、ってなもんだ)。

ファーザーはいったいぜんたい何故、こんなにも阿呆で野蛮でキチガイじみた人間などという生物を愛し、その中に臨在することを好むのか。力能と慈愛に溢れたファーザーが、いったい何故… 大地/女神/女/「ホーム」をとことんないがしろにして、踏みにじって、いたぶって、奪いさって、苦しめぬいて、しかし決して穏やかに死なせないままに、なお何故… 神はたしかに狂ってはいないのだろう(いや、もしかしたらあまりに見事に狂っているのか、狂いすぎているのか)、明らかに狂っているのは人間だ… では何故、何故、何故… そういう映画。

こんなに見事な「宗教」映画(宗教思想・宗教哲学の映画)は、ホントにホントに滅多にない。気を引き締めて、覚悟をもって、神々と人間とのこの神話実写映画に対してみていただきたいなぁ、と切に願います!(*´ω`*)
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