マクガフィン

全員死刑のマクガフィンのレビュー・感想・評価

全員死刑(2017年製作の映画)
3.4
暴力団組長一家4人が、貸金業者一家などの4人を殺害した、「大牟田4人殺害事件」の当事者である次男の獄中手記をベースにしたフィクション映画。DVD観賞。

ヤクザ一家4人が一家4人(1人は友人)を殺し、4人全員が死刑になる、前例がないような破天荒な事件だが、「凶悪」のような重いテイストにしなく、奇妙な重厚さの中に滑稽さでバランスを取り、疾走感があるエンタメ要素が漂うテイストが好感。

ヤクザ一家の幼稚な会話や何気ない仕草、食事作法で人となりがわかる。
威厳が兄と弟には何故かある父。金のことばかり考えて、自分を見下しているし貸金業者が憎い、かんしゃく持ちの母。自分は手を汚さなく、弟に何でも押し付けるズル賢い兄。父や兄の命令に何故か忠実で、実行力が飛び抜けて高く、殺人に高揚する弟。4人ともキャラは濃く、全員悪でわがままなことは間違いない。

事件の動機は、高利貸し貸金業者一家に脱税した現金があるのだが、それは自分たちのヤクザの威光を笠に着ているので、その金なら奪ってもいいという、ジャイアン風な短絡的理論に驚愕する。物凄く狂って歪んだ価値判断だが、4人が4人とも同じ意見なことが凄く、その動機がヤクザ一家としては筋が通っている狂った倫理観は呆れるばかりに。

集団での猟奇的殺人の場合は、集団心理や同調圧力が絡むことが多いが、それが殆どなく、精神的に追い詰められた家族の切迫感からの衝動のようなものは皆無に。殺害・遺棄方法など考えないで行動する行き当たりばったりで自己中心的な犯行には滑稽さと怖さが入り乱れる。

何度も首を絞めても死なない模様や、死体遺棄が生々しく、妙なリアリティと重厚さに。1人目の殺害がトリガーとなり、家族はさらに暴走して、不気味な禍々しさが漂う。

4人全員を殺害した実行犯だった弟が綴った手記からなので、主人公は弟で、弟目線の展開に。
見た目はワルだが、気さくな性格も持ち、家族と彼女想いの一面と、人の命を躊躇なく奪う、非道な殺人者という二面性が同居する恐怖。殺しにカタルシスを覚えて高揚する所以が興味深い。快感の助長は覚醒剤で、殺人を犯しても父から認められたい承認願望で、暴力団一家として生まれ育った倫理観の欠如や、絶対的縦社会からなの行動原理か。父と母と兄を見て、あれではそうなるかもと思うような妙な説得力も。

最大の問題は、この殺人一家のように行動原理が一般的なイメージできる範疇に入らない人々が社会に確実にいて、話が通じない人が今も普通に生活していることだろう。このような人と付き合いがなくても、犠牲者のYoutuberや被害者一家の友人のように、家や車の中にいても、偶然時出会ったり、巻き込まれる可能性があることがメッセージ的で、考えさせられる。

曲のセンスのなさや、字幕説明で粗悪にプロットを繋げることは如何とも。しかし、若さ故の伸びしろだけでなく、何か凄いことをやってくれそうな感じもする、小林勇貴監督の今後に期待したい。