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ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリーのyukacafeのレビュー・感想・評価

4.0
老境に差し掛かった人物が、それまでの人生を語るというフォーマットがとても好きで、ついその嗜好に偏った作品ばかり観てしまうのだが、本作で映し出されたハロルドとリリアンの生き様には特に強く心を打たれた。ハロルドがリリアンに向けるまっすぐで純粋な愛情とその示し方に、リリアンの新しいことにも躊躇せず飛び込む旺盛な好奇心や困難にも臆せず立ち向かう行動力に、すっかり魅せられてしまった。

アーティスト然として職人気質なハロルドが事あるごとにリリアンに送ったメッセージカードの数々は、常に偽りない心のうちがストレートに綴られていて、数々の名作には実は彼が関わっていたという事実以上に、彼の生きた証そのものに見えた。脚本からイメージした物語を視覚化し、絵コンテとして具現的に表現できる才能は、このためにあるのではないかと思えたほど。単なるメッセージを超えてアート作品にまで昇華していた。

リリアンは妻として母として家族を支えただけでなく、自分でも一流の仕事をして、周りの人達からその仕事ぶりと人柄を賞賛されているのだが、これまでの人生について語るリリアンの表情を見ていたら、その賞賛が決して誇張されたものではないことがよくわかった。周りの人にもそのポジティブさが伝染するような、エネルギーの塊のような女性だからこそ、輝かしい功績を残すことができたのだろう。

映画業界で出会った訳ではないのに、二人ともが一流として仕事をし、唯一無二の関係性を築いてきたことは奇跡のように思えた。きっと世界の映画業界には他にもたくさんの名もなき人達がいて、その上で数々の名作が生まれているのだと想像すると、また一つ映画を観る楽しみが広がったような気がした。
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