カラン

冬の旅のカランのレビュー・感想・評価

冬の旅(1985年製作の映画)
4.5
金なし、家なし。革ジャン着て、テントを背負って、冬の道をひたすら女は歩く。

☆シューベルト

“sans foi ni loi”(信仰も道徳もない)という決まり文句をもじった本作の原題は”Sans toit ni loi “で、「家も掟もない」という感じか。英語圏では”Vagabond”となっている。これは放浪者。死を考えながら若者がさすらいの旅をするという内容のシューベルトの歌曲をイメージしたのか、邦題は『冬の旅』。シューベルトには『さすらい人幻想曲』というピアノ曲もある。本作の主人公モナは草とラジオが好きで、あまりクラシックは好きでないかもしれないが。

☆横移動撮影

① X、Yから
道を歩むモナをドリーで追い、台車に乗って手持ちカメラで撮影するのが、10回以上行われる。道を歩む人物を真横から撮影するので、映画空間はX軸とY軸だけの平面になるはずである。例えばウェス・アンダーソンの『ダージリン急行』(2007)のように。しかし、本作はそうならない。

② Zへ
まず、建物の壁がある。あるいは、野の道の場合には上方に畑の盛土ができている土の壁である。こうした壁は、途切れた所や上端から彼方をのぞかせている。ケリー・ライカートの『ウェンディ&ルーシー』(2008)の最初の森と同じように世界がレイヤー化されており、手前と壁とその彼方というようにZ軸方向がモチーフによって形成されるのである。

③ 道
本作の原題は”Sans toit ni loi “で、「家も掟もない」であった。このloiは掟であり、歩むべき道である。モナには家がない。loiもない。だから彼女には歩むべき道がないのか?そう彼女には葉っぱやラジオという好きなものはあっても、他人はそれが生きる道とは認めない。だから、彼女はさすらわなければならない。歩かねばならない。それが彼女のloiであり、それしかない。彼女はどうしても歩かねばならない。

④ 壁
歩かねば、ならない。この運命、この宿痾を映画として描かねばならない。そう。壁。②でモチーフの遠近法を形成しZ軸を生み出していた壁。こうした壁がZ軸を遮断しながら、彷徨を運命づけるのであり、彼女の《生》の掟となり、途切れたところで、上端で、そうではない別の人生を垣間見せるが、彼女には見えない。

壁は超えられない。壁には別の歩み、別の生き方という選択圧がかかるが、超えられないから壁なのだ。この壁が彼女の歩みを必然的なものとする。もし、この映画を観て、このさすらいが、この彷徨が、この歩みが、避けがたい、そうするしかない歩みなのだと感じる人は、いや、そう感じる人だけが、彼女の歩みを方向付けて限定する壁の意味を理解するのだろう。彼女には掟はないが、道はあり、だから歩むのだし、どうしても歩まねばならない。

☆死体

素晴らしい。



Blu-rayで視聴。
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