りっく

さよならも出来ないのりっくのレビュー・感想・評価

さよならも出来ない(2016年製作の映画)
3.8
部屋の床に引かれた緑と黄色の線。それは同居する男と女の生活範囲を区切る境界線だったはずなのに、ラストでは未来へ向かって互いに並走する平行線に見える。そんな二本の線を気にすることなく踏み越えてウロウロする犬の姿も含め、3年もの間奇妙なルールのもと共同生活していた男女の滑稽さと、一方で初めて向き合って想いを伝える場面に感動すら覚える。

この奇妙な設定は、例えば家の外で男女が並び立つ際に、観客もその距離感を意識せざるを得なくなってくる。それを強調するかのように、シンメトリーな構図や横移動の多用、あるいは奥行きや目線のズレ、会話する男女を切り返しで写すか、同一画面で写すか、アングルは横からなのか、背中越しなのか等々、非常に練り上げられたクレバーな演出が巧みだ。

特に向き合うことがないテーブルの配置をしていた室内で、誕生日ケーキのろうそくを吹き消すことで暗い画面が続くなかでの二人の会話は、これ以上ないほどスリリングで、エモーショナルだ。
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