夜行列車に乗ったカリート

マッドバウンド 哀しき友情の夜行列車に乗ったカリートのレビュー・感想・評価

3.6
ディー・リース監督作。
第二次大戦下、アメリカの農村部で生きる2つの家族の苦悩と葛藤を描く。
リアリティのある重苦しい映画。

白人ヘンリーはミシシッピの農地を買い、家族揃って農業を始めることを決意する。一方その地で代々農業をしていた黒人一家のハップは、いつの日か自分たちの土地を持ちたいと願っていた。そして終戦後、ヘンリーの弟ジェイミーと、ハップの息子ロンゼルが戦地から帰ってきて、どうなるか…というのがストーリー。

前半と後半で展開が分かれており、前半は農地を購入して引っ越してきた白人家族と、その地で代々農業をやっている黒人家族との共存生活が描かれます。

人種差別って日本人にはあまり馴染みがないんですが、こういった映画を見るとその根深さを改めて痛感します。
ヘンリーもその妻ローラも、白人至上主義とまではいかないものの、やはり黒人に対しては自分たちの方が高尚だと思うんでしょうね。一方で黒人のハップも白人には決して敵わない…というような面持ちがあって逆らう事は出来ません。生活の状況は似たようなもんなのに、ハッキリとした優劣があるんですね。
それはやっぱりアメリカ南部の歴史が、そのまま人々の悪風となってその地に根付いてしまった表れか、それとも人間の持つ性か…。だから白人至上主義者のヘンリー父に対して、最悪なクソ差別主義野郎だと一概に一蹴できない理由が、当事者でない我々にはあります。

しかしそれとは対比するかのように親しくなる、帰還兵のジェイミーとロンゼル。
戦地では黒人にだって背中を預けなきゃならんわけで、とても差別なんかしてる場合ではない訳ですよ。彼らにとっては同じく命を懸けて戦った者同士、共同体を経験したという点で自然な流れです。

人間は根本的に、自分達と違うものを分ける癖がありますよね。白人・黒人・アジア人、異性愛者と同性愛者、資本家と労働者…。それらは本能的な自己防衛からかもしれませんが、結局は「一緒に生きている者同士だ」、ということですよ。
そのことは戦地に行ったジェイミーとロンゼルが証明してくれてます。

娯楽性が薄く最後まで重苦しい展開ですが、アメリカ史の一辺を切り取った作品として十分に見ごたえある映画でした。