あらぬ方こそ誉なり
ふるえずにはいられないだろ馬鹿野郎
美男美女が綺麗事を並べ立ててまぐわりあう昨今の恋愛映画すべてに中指を立てる大傑作。恋愛に理想を持ち出す全国の愚か者どもはこの映画に学ぶべし。
松岡茉優扮するヨシカは、等身大の人間そのものである。というか限りなく今の私である。人との交友関係に遠いことで自分の世界へ閉じ籠ってゆき、現実を生きる感覚が狂ってしまう。一方で、虚栄心と自惚れだけが醜く肥大化し、取り返しのつかない勘違い野郎へ変じてゆく。書いていて自分が寂しくなってくる。
「ジャンヌダルクがいるじゃん！」なんて台詞、私も昨日言っていたような気がする。そんな自己暗示型の腑抜け女が、いやがおうにも現実と繋がるはめになる恋愛という舞台で、もみくちゃにされながらも人間として成熟するのが今作の目玉である。彼女の身勝手極まる人格を理解できない人からすれば、これほどつまらない映画はないだろう。しかし、虚栄心に飲み込まれて自分を見失ったことのある人、あるいは世界との軋轢に悩み苦しんだことのある人であれば、この映画の真価をきっと理解できる。
私も人と別れて以来、「いち」ばかり追いかけている気がする。向こうの「いち」は私の名前を知っているのだろうか。であれば「に」との逢瀬にはいつ巡り会えるのだろう。どうせなら「さん」でいいから、誰か私に潤いを……
理想に苦しむ全ての人に観てもらいたい傑作。私も今のこの自分を愛することとしよう。さて、まずはアンモナイトから購入するとしよう
