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ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書のtsuraのレビュー・感想・評価

3.9
当たり前と思っていた真実や権利も実は目の前にかざされた人参であって、実際は違うなんてことが今凄く多いと思う。

フェイクニュースだなんて色々騒がれたりしてるけど…これほど情報が錯綜してる世にありながら淘汰されているのもまた事実で。
人間は目の前しか結局、見えてないのだろうか。そんな斜に構えた感じでと見た本作。

やっぱりスピルバーグは毎度高品質な作品を放ってくるなと感心しつつ、お得意の壮大なスケールを封じて意外とミクロな視点で捉えてる事に驚いた。

ベトナム戦争の国民には知られてならぬ真実を隠しながら若者を戦地へ送るアメリカ政府。
これらを纏めたトップシークレット通称"ペンタゴン文書"を極秘裏に得たNYタイムズがスクープし、報道するわけだが当然ながら政府の権力が牙を剥き餌食となる。

権力一つで淘汰されてしまう。

報道の自由、発言の自由、真実を知る権利、統制を強めようとする政府との戦いを当時全国紙になりきれなかったワシントンポスト紙のキャサリンとベンが挑む。

立場は違えど、向かう道筋は一つ。

彼らは同じ様に政治的圧力に晒されながらも自分達と未来のアメリカの為に全霊をかけた勝負に出る…。

近年でいうとどうしても「スポットライト」と比較してしまう雰囲気ではあるがあの作品にあったアンサンブルの持つ複雑性やスケール感はこの作品は弱い。(そこが惜しい訳だが)
本作品のバックボーンとなるスケールは大きい。
上述の旨味は無いがこの作品の強みと言えばあくまで2人を軸に描いている事に尽きるのでは無いか。
いや、寧ろそれを徹底的に2人の動向を追っている。
スクープへの執念、真実を伝える為の戦い、新聞社としての使命、その苦悩、決断。

あくまで2人の目線が関与した描き方。

意図的に2人の目線で"見た"様な演出も多い。

これは推察の域を出ないが、おそらくこのストーリーは多面的過ぎるので、視点を定点化する事で大きな問題の焦点を絞り、問題を提起している。


個人的には報道の前後に見える闘争のドラマをもっと見たかった気がしたが、これはあくまでワシントンポスト紙が報道の自由の為に戦った記録であったのだから、ドラマという仕立てよりドキュメントに近い志向であった。

実はココがミソと言うか。

スピルバーグが声高に言いたかったのは、現代における権利の主張をこの作品でもって訴えることだった訳だ。
戦うことの意味をこの時代のこの事件を使って今を生きる私達に提示している。

そして、このテーマを浮かび上がらせるためにトム・ハンクスとメリル・ストリープという強烈過ぎる2トップのキャスティングをしたわけか…いやいや2人には恐れ入った笑
随所に散りばめられた演技合戦はそれくらい恐ろしいほどにリアルだった。
周りの俳優陣も舞台役者というツワモノ揃い。
(この熱い演技合戦は見る価値あり)

まあ…そんなこんなで良く出来た重厚な社会派ドラマなので、是非この2人の闘いを逃してなるまい。
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