映画狂人

アイスと雨音の映画狂人のレビュー・感想・評価

アイスと雨音(2017年製作の映画)
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「私達は自意識を持った宇宙なんだよ」

74分全編ワンカットで駆け抜ける若き劇団員達の1ヵ月間。
予定していた公演が中止になるという監督自身の経験を元に、現実と虚構が綯い交ぜになり感情が昂っていく過程をまるでドキュメントのように追いつつ、新たな表現方法を模索するかの如く映画と舞台の狭間を縦横無尽に渡り歩く。
画面のアスペクト比を変える事で劇中劇と現実の往来を観客に提示する辺り実に映画的でシームレスな手法であるし、表現の場を失った劇団員達の魂の叫びを代弁するMOROHAの語りでは逆に演劇的な空間演出が光る。
感情を作品の中に閉じ込めるという意味では大成功と言っていい、こういうメタ構造を持って来られると映画好きは無条件で前のめりになってしまう。
全編ワンカット撮影も長回しフェチとしては堪らないものがあった、役者陣の熱量に圧倒されると同時に松居大悟とMOROHAの親和性の高さをまざまざと見せ付けられる。
青春は終わらない、若さ故の青臭く迸る激情は溢れ出る疾走感となって唯一無二の体験を観客に齎す。
聖地・本多劇場にて、無人の観客席に向かってフラストレーションを爆発させるクライマックス。
「カット!」の声が掛かった瞬間、抱き合う6人の姿に思わず目頭が熱くなる。
映画・演劇・芸術を愛する全ての人に無条件で薦めたい傑作、「若さ」以上に脆く繊細で美しく向こう見ずな強さを私は知らない。
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