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心と体とのtakeman75のレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.2
同じ「鹿の夢」を見た事で、心を通わせ始める男女の「発情」の過程を、繊細かつ「少し不思議」なタッチで綴った、愛すべき恋愛物語。まさに「子鹿」の心が人体に宿った様なヒロインを演じた、アレクサンドラ・ボアブリーの佇まいが、圧倒的に素晴らしい。明らかにアスペルガー症候群を患ったと思わしき彼女が、初めて「異性」への興味に戸惑い、相手を「触れる」喜びに目覚め、やがて自分の「意思」を形成していく姿が、何とも微笑ましく切なく描かれて、絶品。

食肉センターが舞台である関係上、生々しい肉牛の処理などデリケートな人には刺激の強い場面もあるが、映画の随所から漂う「血」の匂いが、本作を単に「繊細な作風」だけを売りにしたお行儀の良い映画とは一線を画す、シュールでブラックな笑いと奇麗事ではないリアリティ(何しろヒロインの相手は、半身麻痺を患った、初老の男なのだ)を加えていて、実に印象深い。

この奇妙に捻れていながらも、誰の心の奥底に潜む弱弱しい「草食動物」の本能を表出させるタッチ、恐らく『マルコヴィッチの穴』『エターナル・サンシャイン』、そして『アノマリサ』などのチャーリー・カウフマンの諸作を手本にしたのではと邪推するが、彼の作品よりもずっとシンプルな形で、この深い「性愛」の深層を描き切ったイルディコー・エニェディ監督の「目」の鋭さこそ、本作の白眉と言えるかも。
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