Iri17

デトロイトのIri17のレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.9
キャスリン・ビグロー監督の最高傑作だと思う。最初から最後まで本当に不快だし、怖いし、頭にくる。でも絶対に目を逸らしてはいけない事だし、全世界の全員が観て、考えなければならない作品。

前半は少し引き込まれるまでのエンジンがかかるのが遅いという問題はあるけど、中盤からはずっと尋常じゃない緊張感が張り詰めてる。ここまでのは久し振り。それこそビグロー監督の『ハートロッカー』以来。

アメリカ社会と黒人差別に対する強力なアンチテーゼでありながら、「差別は良くない!」と安っぽく叫んでる映画じゃない。
淡々と悪夢を写し続けてる。それこそ『悪魔のいけにえ』のようにあざとくない恐怖を引き出すホラー映画みたい。だからこそ、差別の恐ろしさがずっしりと重たくのしかかる。

ウィル・ポールターの事がマジで嫌いになりそうなくらい、こいつの演技がすごい。こんな役やったら街中でトマトの一つでも投げられたのではないか?とばっちりで。
ジョン・ボイエガもスター・ウォーズのフィンの時のような情け無い男ではなく、渋い男を好演してる。でもこの男が社会に迎合して決して歯向かわないある意味弱い男ってとこがまた何とも言えず魅力的なキャラになってる。
スマホの壁紙にしてるくらい大好きなハンナ・マリーの「オッ!」っていうシーンがあるけど、そんなん気にしてる場合じゃないくらいの、張り詰めた緊張感。それこそ、被害者と一緒にアルジェ・モーテルの壁に手をつけて銃突きつけられてるような。

でもこの映画を観ても不思議な事にアメリカってクソだなとはそこまで思わなかった。もちろん、なんやこの社会、腐ってんなって思うシーンがずっと続くんだけど、善と悪の二項対立で描いてないという点が救い。素晴らしい白人も居れば余計なことをする黒人もいる。社会の表面ではなく、もっと普遍的なものを描いてる。

これアカデミー作品賞にノミネートされてないけどいいの?『スリー・ビルボード』とか『シェイプ・オブ・ウォーター』とか『レディ・バード』のハードルがめちゃくちゃ高くなりますが?『デトロイト』がめちゃくちゃ気に入ったから、お前らちょっとやそっとじゃ褒めないぞ。

ジム・クロウ制度の歴史を知っていて、この映画を観たら、顔面黒塗りで笑い取ろうなんて思うはずがない。差別の歴史はないとか意図はないとか言う問題ではないから。猛省して下さい。

『勝手にふるえてろ』脳から切り替わらなかった僕の脳を完全にハックしてきた大傑作。満点でもいいけど、前半のテンポが少し悪いのでちょっと引きます。
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