Omizu

触手のOmizuのレビュー・感想・評価

触手(2016年製作の映画)
3.7
【第73回ヴェネツィア映画祭 監督賞】
『エリ』でカンヌ映画祭監督賞を受賞したメキシコのアマト・エスカランテ監督作品。三大映画祭のうち二つで監督賞をとっているのは凄い。

ヴェネツィアは変な映画ばっかり選ぶなぁ。評判悪いけど僕はけっこう好き。演出や撮影が所々安っぽく感じる部分があるけど、クリエイチャーの造形はしっかりしているし、愛に関する寓話としての深さが十分ある。

要は究極的な性愛が存在してしまうとどうなるか、ということ。完璧に性を満たしてくれるものは理想にみえるけど、実際に存在してしまうと人間は生きる意味を見失うのではないか。そういうことなんじゃないかと受け取った。

触手の謎の生物がなぜ来たか、正体は何か、それは結局のところどうでもいい。最後まで分からないことが多くてモヤモヤするのも分かる。そういう意味ではかなりアート映画的。モンスター映画だと思って観るとそりゃ期待外れに決まっている。

複雑で捻れがちな人間の性欲、それをこの監督は肯定したいんじゃないかな。不完全だから人間たりうるというか。夫に暴力を受ける女性、妻の弟と寝る夫、セックスレスな中年夫婦、捻れた愛を描きつつ、一筋縄ではいかないから面白いという感性を持っている気がする。

時々「ん?」と思うクオリティなシーンもあるにはあるが、独特な感性はかなり好きだった。『エリ』も日本未公開だが観てみたい。
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