Akiyoshi

シェイプ・オブ・ウォーターのAkiyoshiのレビュー・感想・評価

4.2
「a Guillermo del Toro Film」そうこれはデルトロの映画だ。

「ギレルモ・デル・トロの映画がアカデミー賞作品賞を授賞」という1文でどれだけ盛り上がったか。仕事中も気になって気になって仕方がなかったアカデミー賞授賞式当日。私は何故か緊張していた。一世を風靡するような映画ではなく、個性の色が強くマニア受けが著しいいわゆるところのサブカル系に分類されるギレルモ・デル・トロの映画がメインカルチャーの大本命であるアカデミー賞で作品賞を授賞するかもしれない。これは大事だ。

日本でもいわゆるサブカル系に位置されるものが最近では表舞台で輝いている。SNSなどを通じて発信受信しやすい時代において当たり前になるのかもしれないが、過去には目立たなかったもの。一部のマニアにしかウケなかったものが広く需要があったりする。その1つが映画の中ではギレルモ・デル・トロの映画であると私は思っていた。

サブカルオタクの権化であるデルトロ。メキシコで生まれ育ち、当時はオタクというマイノリティーだった彼は、幼い頃から映画や怪獣やモンスターといった異形のものに惹かれていた。そして、その異形の存在に救われてきた。映画人として国外に活躍の場を移しても、メキシコ人であることで差別を受けてきた。その経験はデルトロの映画でも色濃く反映されている。現実に満足していないマイノリティたちは、夢を必要とするのだ。

現実を知り、空想を必要とする人の気持ちをデルトロは痛いほどに知っている。エロからもグロからも目をそらさない大人のファンタジーを語る作家性とポピュラリティーを兼ね備え、さらに自分が大好きな過去のモンスター映画への愛に溢れたエンターテインメントを世に送り出す。それがギレルモ・デル・トロだ。

「パシフィック・リム」で魅せたオタクの塊を受け、私も彼のファンになった。彼の世界観が好きな人もいつの間にか増えていった。サブカルチャーという垣根を越え、ギレルモ・デル・トロというジャンルが生まれつつあったのだ。

「作家性」という言葉が似合う監督。今じゃなかなかいない気もする。リスクを回避し、経済性と効率が求められる映画業界において、マーケティング主導な業界では作家性というオリジナリティー溢れる才能は不要とされてしまう可能性がある。売れる車を作る時に大人数でマニュアル通りに作るのが1番良いのだ。だからこそ、個別に担当を分け、映画を制作していく今の映画業界の中でデルトロのようにアイデア(原案)からプロモーション(ポスターデザインなど)まで関わるとなるのはかなり難しいことだろう。

しかし本作品の冒頭には「a Guillermo del Toro Film」と表記される。そう、デルトロが一貫して細部まで関わり独創性を吹き込み続けた結果がギレルモ・デル・トロの映画となったのだ。自分の名を出すことでの責任感の表れには、感動した。ここまで関わって自分の好きなようにしたからこその自負が伝わる。覚悟を感じたのだ。

作家性は宿り続ける。本作品でデルトロが魅せた光と闇は様々なクリエイターの存在すらほのめかした。人種差別、ジェンダー、マイノリティーという社会問題が強く突き刺さる一方、デルトロ成分が120%配合された映画になっている。

「シェイプオブウォーター」が作品賞を授賞したことを受け、自分が好きだったけど、何だか恥ずかしくて人には内緒にしていたものが、別に恥ずかしくなくなった気がした。

ありがとう。デルトロ。
Akiyoshi

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